メインコンテンツへジャンプする

JPNICはインターネットの円滑な運営を支えるための組織です

ロゴ:JPNIC

WHOIS 検索 サイト内検索 WHOISとは? JPNIC WHOIS Gateway
WHOIS検索 サイト内検索

ニュースレターNo.87/2024年8月発行

隣国相互理解の第一歩~KR-DRPとの出会い~

大野総合法律事務所 弁護士 山口 裕司

JPNICは、ICANNやAPNICの会議などで各国の関連団体と継続的に交流を図っていると理解しています。 しかし、JPNICにより採択されたJPドメイン名紛争処理方針(JP-DRP)に基づく認定紛争処理機関である日本知的財産仲裁センター(JIPAC)は、 ICANNにより採択された統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)に基づく認定紛争処理機関である世界知的所有権機関(WIPO)との接点はあったものの、 他のドメイン名紛争処理機関と交流する機会が長らくありませんでした。

WIPOとは別のICANN認定紛争処理機関として、 アジアドメイン名紛争解決センター(ADNDRC)が2002年に設立されていて、 現在は、中国国際経済貿易仲裁委員会(CI ETAC)が運営する北京オフィス、 香港国際仲裁センター(HKI AC)が運営する香港オフィス、 アジア国際仲裁センター(AI AC)が運営するクアラルンプールオフィスおよび韓国インターネットアドレス紛争調停委員会(KIDRC)が運営するソウルオフィスの4オフィスによって構成され、 事務局が香港オフィスに置かれています。 2023年2月に、HKIACの事務局長が来日された際の会合で、私は、 ADNDRCとJIPACの連携の可能性について話題にしてみました。 HKIACは好意的に対応をしてくださって、ADNDRCとJIPACの間でWeb会議や電子メールのやり取りが進み、 1年経ったところで、私は、 ADNDRCが2024年5月30日・31日にソウルで開催するPractice Development Workshopの1つのセッションに登壇のお誘いを頂きました。 セッションは、「JP-DRP and KR-DRP Policy and Procedural Features」と題され、 私がJP-DRPを紹介し、 韓国外国語大学校法学専門大学院の申智慧先生がKRドメイン名紛争処理方針(KR-DRP)を紹介するという内容になりました。

私は、2020年に行われたJP-DRPの改正作業に関与した際に、 主に一般(分野別)トップレベルドメイン(gTLD)に適用され、 申立件数も多いUDRPの規律を参考にして、 JP-DRPをUDRPに可能な限り近づける方向で、 手続の電子化等の改正を進めました。 ただ、国コード(国別)トップレベルドメイン(ccTLD)に適用される紛争処理方針が諸外国でどのように定められているかについては、 これまでほとんど学ぶ機会がありませんでした。

ADNDRCのPractice Development Workshopでは、UDRPの最新実務のほか、 KR-DRPの特徴についても複数の講演が行われました。 隣国のドメイン名紛争処理制度について無知であったことを痛感するとともに、 相違点がいろいろあることに興味を覚えました。 紙幅の許す限りで、主な相違点を紹介したいと思います。

JP-DRPは、JPNICによって採択され、 ドメイン名の登録契約によって登録者を拘束するものですが、 KR-DRPは、「インターネットアドレス資源に関する法律」の「第4章 インターネットアドレス紛争調停委員会」(第16条~第24条)を指し、 法律として登録者を拘束しています。 JIPACは、認定紛争処理機関となるに当たりJPNICと協定書を締結していますが、 KIDRCは、上記法律によって設置された機関です。

JP-DRPは、 UDRPと同様に申立人が3項目を立証してドメイン名の移転または取消を請求できることを定めていますが、 KR-DRPは、被申立人のドメイン名等の使用が(1)商標権を侵害する場合、 (2)周知な商品や営業と混同を引き起こさせる場合、 (3)著名な氏名、商標等に対する識別力や名声を損なう場合、 (4)被申立人のドメイン名等の登録、保有または使用が、 正当な権限を有する者の登録または使用を妨害したり、 不法な利益を得る目的で行われたりする場合の4つの場合にドメイン名等の移転または取消の決定ができることを定めていて、 移転または取消が認められる範囲が広いと言えます。 JPドメイン名紛争処理よりもKRドメイン名紛争処理の方が、 手数料も安く、申立件数は多くなっています。

JP-DRPでは、パネルが裁定を下し、登録者が出訴した証拠を提出しない限り、 パネルの移転または取消裁定は実施されますが、KR-DRPでは、 調停部(パネル)が調停決定案を作成し、 被申立人が出訴または仲裁申立をした証拠を提出しない限り、 被申立人が調停を受け入れたものとみなし、 申立人が実行を申請できるという形式が採られています。 KRドメイン名紛争処理のパネリストは、JPドメイン名紛争処理よりも人数が絞られていますが、 事件の割り当てや世代交代の仕方にも違いがあることが分かりました。

隣国の実務家と交流してみて、私は、自分の固定観念が覆され、 新しいアイディアが湧いてくることに気づかされました。 gTLDやさまざまなccTLDの紛争処理の大海を知った蛙は、 JPドメイン名紛争処理だけという井の中に戻るわけにはいかないだろうと思います。


執筆者近影
プロフィール●山口 裕司(やまぐち ゆうじ)
1994年 一橋大学法学部卒業、 1997年 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、 1997年-2000年 株式会社東芝知的財産部、 2001年 弁護士登録、 2004年-2006年 外務省国際法局経済条約課課長補佐、 2008年 コーネル大学ロースクール修士課程修了、 2015年-2016年 三井物産株式会社法務部。 2016年 現職。 2024年 日本知的財産仲裁センター本部運営委員長。

このページを評価してください

このWebページは役に立ちましたか?
よろしければ回答の理由をご記入ください

それ以外にも、ページの改良点等がございましたら自由にご記入ください。

回答が必要な場合は、お問い合わせ先をご利用ください。

ロゴ:JPNIC

Copyright© 1996-2024 Japan Network Information Center. All Rights Reserved.