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ニュースレターNo.87/2024年8月発行

OTT(ストリーミング)のトレンド2024

01 はじめに

インターネットトラフィックの今後を考えるにあたっては、 トラフィックを生成しているサービスの今後についての予想が必要になります。 そして、インターネットトラフィックの9割以上は人間により生成されていると思われ、 トラフィック量もインターネットがメディアとしてどれぐらい使われているかに大きく依存しています。 例えば、株式会社博報堂が毎年行っている「メディア定点調査」におけるネット系デバイス(PC、 タブレット、スマホ)の接触時間と総務省が半期毎に行っているトラフィック調査について、 2024年までの6年間を分析すると、それらの増分には、かなり高い相関(0.91)がみられます※1

※1 線形近似としては、 トラフィック増分=1.53×接触時間増分+0.10 (R2=0.829)が得られ、 接触時間に依存しない毎年のトラフィック増分が10%であり、 接触時間増分×1.53でトラフィックが増えるという結果になっています。

そして、ストリーミングは、 インターネットトラフィックの7割程度※2を占めており、 そのトラックシェアも毎年増えています。 そのためインターネットの今後、 特にトラフィックの今後を予想するには、 ストリーミングの今後を予想することが必要になります。

※2 インターネットトラフィックにおけるストリーミングのシェアは、 DPI (Deep Packet Inspection)メーカであるSandvine社が顧客ネットワークのサマリーとして公表しています(Internet Phenomena Report)。 2024年版における大陸別ダウンロードトラフィックにおけるストリーミング比率は以下のように報告されています。
  • 南北アメリカ:75%
  • ヨーロッパ:68%
  • 中東・アフリカ65%
放送系サービスのネット化が最も進んでいるのは米国であり、 それを含む南北アメリカのストリーミング比率が最も高くなっています。 米国だけのデータは公表されていませんが、8割程度まではいっていると思われます。

今回は、CDNというネットとコンテンツの中間的なビジネスを行っている筆者が、 サービスの今後について日々分析しているデータを元に、 ストリーミングの現状と今後について概論してみたいと思います。 内容としては、全体的に感覚的・暴論的なところをあえて残し、 議論のたたき台になるような文章にしたいと思っています。 また、質問やご意見は、 このようなストリーミング全体の議論ができるグループ(JaSEG※3)を作りましたので、 そちらへいただければと思います。 また、今回は紙面の都合上、ソースとなる情報のURLは省きました。 これらについてもJaSEGに投稿しますのでご参照ください。

02 ストリーミングサービスの分類

ストリーミングサービスの動向を概観するにあたり、 サービス全体のセグメント分けが重要になります。 今回は、ビジネスモデルと配信方式の2軸を使い、 ストリーミングを四つのセグメントに分割します。

  • ビジネスモデル:無料(広告収入)、有料(ユーザー課金)
  • 配信方式:一斉配信(リニア)、オンデマンド配信

そして、 それぞれのセグメントに実際のサービスを割り振ると以下の表になります(FASTやvMVPD等の新サービスについては、 それぞれのセグメントで解説します)。

表:ストリーミングサービスの分類
表1 ストリーミングサービスの分類表

03 サービス形態別動向

それぞれのサービス形態別に動向を解説します。

有料 ・一斉配信

サービス概要

同一コンテンツを一斉(リニア)配信かつ有料のサービスが該当します。 具体的なサービスとしては以下が該当します。

  • 旧世代:MVPD (CATV、有料衛星)、NHK
  • ネット世代:vMVPD
    • グローバル:YouTube TV、Sling TV等
    • 国内:なし

ここで挙げたMVPD (Multichannel Video Programming Distributor)とは、 CATVや衛星放送のように、マルチチャンネルを提供するサービスを指し、 vMVPD (virutal MVPD)とは、 それを一般インターネット上でユニキャスト送信するサービスになります。

vMVPDでは、一般のCATVと同様に、 各種有料チャンネルの配信および米国等では地上波の再送信を行っており、 サービスとしては、以下の三つのタイプに分かれます。

  • CATVの無料アドオン:CATVがユーザーに対しいくつかのチャンネルを追加料金なしでユニキャスト視聴できるサービス(本稿では扱いません)
  • 安価型:Sling TV等、CATVよりチャンネルを絞った安価なプラン(スキニーバンドル)を提供するサービス
  • 高利便性型:YouTube TV等、一般CATVと同等の値段設定で、以下のような機能(YouTube TVの場合)を無料で提供するサービス
    • ネットDVR:録画量は無制限(ただし、保存期間は9か月)
    • マルチアカウント:登録可能なアカウントは最大6(ただし、同時視聴は3ストリームまで)

グローバルトレンド

ここでは、vMVPD先進国である米国の状況を概説します。

コードカッティングが加速:ここ数年、CATVのビデオサービス解約(コードカット)が加速しています。 例えば米国トップシェアCATVであるComcastの場合、ビデオサービス会員数は、 2013年には2,258万加入ありましたが、2023年では38%減の1,411万まで減少しています。 また、減少率もここ数年は、2021年は8.41%、2022年は11.9%、2023年は12.61%と拡大しており、 現在の減少ペースが続くとあと数年で2013年の半分(1,100万契約)までビデオ会員が減少しそうです。

vMVPDは躍進:2022年第1四半期時点において、vMVPDは、 全MVPD (CATV+衛星+vMVPD)の約16%のシェアを持ち、約1,250万契約を獲得しています。 マーケットリーダーは高利便性型のYouTube TVであり、MVPDとしてみても、 全米第5位の500万加入を獲得していると言われています。

マーケット全体としては縮小:ただし、マーケット全体を見ると、 コードカットによるマーケット縮小をvMVPDでは補い切れておらず、 VoD等へユーザーが流出している状況だと思われます。

国内の今後(予想)

国内のCATVサービスにおけるビデオ会員数は2023年現在ではまだ微増です。 一方、国内マルチチャンネル衛星放送であるスカパーの加入者はピークの383万件(2012年)から274万件(2024年)まで28%減少しています。

また、国内では、YouTube TVのような高利便性vMVPDの大きなメリットであるネット型DVR(センター側に記録ストレージを持つ)について、 著作権法の制限から、低コストなコンテンツ共用型(複数のユーザーで同じ保存番組を共用する)での実装ができず、 ユーザーごとに番組保存を行う必要があります。 よって、日本では、米国より多くの運用コストがかかるため、 トップシェアであるYouTube TVが日本に進出するか疑問が残ります。

そのため、コードカットは日本においても徐々に始まるが、 CATVのユニキャストにおける置き換えは米国のように急速には進まないと予想します。

有料 ・オンデマンド

サービス概要

ユーザーがオンデマンドにコンテンツを視聴する有料サービスが該当します。 具体的なサービスとしては以下が該当します。

  • 旧世代:レンタルビデオ、セルビデオ
  • ネット世代:VoD (Video on Demand)
    • グローバル:Netfix、Disnely Plus等
    • 国内:U-Next、FoD等

グローバルトレンド

有料・オンデマンドは、2024年までの所、 動画関連サービスにおいてネット化により一番大きな変化があったセグメントです。 つまり、グローバルなトレンドとしてレンタルビデオ店は姿を消し、VoDに移っています。 例えば、米国最大手のブロックバスター社は2010年に倒産し、 2014年に直営300店舗をすべて閉鎖しています。

また、過去10年程度、ストリーミングトラフィックの半分以上が、 有料・オンデマンド型であるという時代が続いています。 しかし、全体的には頭打ち感のあるマーケットでもあり、Netflix等では、 広告導入による安価なプラン導入が開始されています。

国内の今後(予想)

国内でも、 物理的なレンタルビデオは消滅の方向に向かっており(ピーク時に1万2,454店舗あったレンタル店が2022年は2,527店まで減少しています)、 VoDが動画視聴の主流になっています。 一方、一般社団法人日本映像ソフト協会によると、2007年の市場規模は6,642億円(レンタル+セル)、 そして、2023年は8,123億円(レンタル:417億円+セル:1,715億円+VoD:5,991億円)というように、 市場規模が1.22倍になっています。 これは、ネット化によりユーザーの利便性が上がり、マーケット全体が拡大していると言えます。 同様の傾向を持つものとしてはコミックがあり、電子化により市場規模が拡大しています。 ただし、VoDの市場拡大率は、2020年が65.3%、2021年が22.4%、2022年が13.2%、そして、 2023年が8.8%と頭打ち感があり、米国のような広告導入による安価なプランが普及しても、 全体的な伸びは限定的であると思われます。

無料 ・一斉配信

サービス概要

ユーザーがリニアにコンテンツを視聴する無料(広告)サービスが該当します。 具体的なサービスとしては以下が該当します。

  • 旧世代:地上波テレビ、無料衛星テレビ
  • ネット世代:テレビ放送のリニアネット再送信、FAST(リニア)
    • グローバル:Tubi TV、Pluto TV等
    • 国内:ABEMA、Rチャンネル等

ここで、FAST (Free Ad-supported Streaming TV)とは、 地上波テレビのようなリニア視聴型のサービスをユニキャスト配信で行うものになります。 ただし、コンテンツとしてはテレビ放送のような細かな編成ではなく、 スタートレックチャンネルのように単一シリーズを繰り返し(ファイルtoライブ)配信しているサービスになります。 また、多くのFASTサービスではこれらのタイトルをVoDでも提供しています。

マーケットトレンド

日本のNHKや英国のBBCは、テレビ局主体でユニキャストによるチャンネル再送信を行っています。 一方、米国については、テレビ局自体はユニキャストのチャンネル再送信は行っておらず、 スタートレックや48アワーズなどの古い番組を使用した疑似ライブ(ファイルtoライブ)配信を行っています。 このようなFASTサービスは、全体として、そこそこの視聴シェア※4を確保できています。 また、Tubi等の人気チャンネルは、既に広告枠がすべて売れており、広告出稿側からも評価されています。

※4 Nielsenのthe Gaugeが(テレビ受像機における視聴コンテンツのシェア調査)によると、 米国2024年4月の段階における、FAST系3社(Tubi、Roku、Pluto)の合計シェアは3.8%となっており、 これはNetflix (7.6%)の約半分、Prime Video (3.2%)よりも多いシェアになります。

国内の今後(予想)

まず、国内テレビ放送の状況ですが、過去10年間で約30%程度の接触時間減少が発生しているようです。 例えば、株式会社博報堂の「メディア定点調査」によると、 国内におけるテレビデバイスへの接触時間は、 2024年までの過去10年で約20% (2015年:152.9時間⇒2024年:122.5時間)減少しています。 ただし、このテレビデバイスへの接触時間にはネット経由コンテンツの視聴も含まれます。 また、その比率については、REVISIO社が「コネクティッドTV白書2024」で調査しており、約26%となっています。 さらに、CTVの普及率が国内TV全体の半分程度であるため、 国内におけるテレビデバイスのネット経由コンテンツの視聴は13%程度であると思われます。 これをベースに計算すると、過去10年の接触時間は30%減少まで拡大します。 また、総視聴率も過去10年間で3割程度減少しており、これを裏付ける形になっています。

つまり、放送からネットへの移行は、「放送離れ・オンデマンド系への移行」という形で、 3割程度は進んでいると思われます。 そのため、放送コンテンツのネット同時送信(NHK等を筆頭に始まりつつありますが、 本格化はしていない)が本格的に始まっても、トラフィックへのインパクトは限定的であると思われます。

一方、電波マーケットにおける広告費としては、 株式会社電通が毎年発行している「日本の広告費」によると、 過去10年で11%しか減少していません。 つまり、出稿側の意識がまだまだ電波放送にある状況ですが、 媒体の実情に対する理解が上がるにつれて、電波放送の広告市場は急速に縮小し、 番組制作予算の減少、番組の訴求力低下、さらなる電波離れという形で進んでいくと思われます。

一方、ネットメディアの今後としては、国内でも、FAST型のサービスが始まっています。 そして、国内FASTとして最も有名なABEMAは、米国型FASTとは違い、 コンテンツ投資に積極的なビジネス展開を行っています。 ただし、営業面については、売上は伸びていますが、まだ100億円規模の赤字となっています。 一方、米国型の安く使い古されたコンテンツをベースにしたFASTとしては楽天Rチャンネルがあります。 そして、海外テレビ局のFASTによる国内進出も検討はされている段階だと噂されています。 全体としては、米国におけるFASTが先に黒字化し、日本もその後を追う形になると思われます。

無料・オンデマンド

サービス概要

ユーザーがオンデマンドにコンテンツを視聴する無料(広告)サービスが該当します。 具体的なサービスとしては以下が該当します。

  • 旧世代:なし
  • ネット世代:YouTube、FAST (オンデマンド)
    • グローバル:YouTube、TikTok、Facebook、Tubi TV等
    • 国内:TVer、ABEMA、Rチャンネル等

ネット時代より前には、広告型のオンデマンドサービスは存在せず、 ネット世代になり本格的に始まったセグメントになります。

マーケットトレンド

長らく、YouTubeが広告付き動画のトップとしてマーケットを推進し、 2018年には黒字を達成しました。 しかし、そのYouTubeもポジションを落とし始めています。 まず、固定系では前述のFASTのオンデマンド配信が接触時間を増やし、 YouTubeはそのあおりを受けています。 そして、モバイル系ではTikTokやFacebookのようなショートビデオ系サービスがYouTube以上の接触時間を確保していると報告されています。 また、有料・オンデマンドセグメントがマーケット的な成長限界に達し、 Netflixのように、広告を付けた低価格化、シェア拡大を狙う動きがあります。

国内の今後(予想)

国内の特徴としては、YouTubeがまだまだ強く、「コネクティッドTV白書2024」によると、 そのCTVにおける接触時間は日本テレビに次ぐ第2位となっています。 そして、FASTにおいては、TVerのようなテレビ番組の見逃し型が大きく伸びています。 どちらにしろ無料(広告) VoDはグローバルで伸びているセグメントであり、 国内ストリーミングトラフィックもこのセグメントを中心に増えていくと思われます。

終わりに

全体的に見て、リニア(同時配信)についてのマーケット縮小が目立ちます。 また、インターネットにおいて映像より10年ぐらい先行している文字メディアについては、 新聞や雑誌などが同時配信に該当しますが、その発行部数については(過去20年間で)、 新聞は約半分、雑誌は1/3程度まで(広告収入については、新聞は35%、 雑誌は28%まで)縮小しています。

ここで、同時配信をエンジニアリング視点で見ると、 新聞・雑誌・電波放送のようないわゆる旧世代マスメディアは、ネットが無かった時代に、 多数のユーザー(マス)にコンテンツを届けるための唯一の技術であったと言えます。 つまり、個別配信(オンデマンド)が可能になったネット時代においては、 スポーツイベントなどのリアルタイム性が必要な伝送以外の同時配信は廃れていくと思われます。

そして、Nielsen the Gaugeのデータを見ても分かるように、テレビデバイスは、 放送コンテンツの視聴から、ネットコンテンツの視聴デバイスへとシフトしています。 また、ストリーミングの視聴デバイスも、スマホやPCからテレビにシフトしており、 いくつかの調査では、既にテレビがストリーミング視聴のトップシェアデバイスになっています。

一方、通信と放送の融合というキーワードで、 テレビなどの旧メディアのネット活用が今後大きなトラフィックを発生させる可能性もあるかと思われました。 しかし、現状すでに、テレビ放送は2024年までの10年でその媒体力(接触時間)を約30%失い、 ネットはそれを補う形で接触時間を増やしています。 つまり、通信と放送の融合というのは幻想でしかなく、実際には、 放送から通信への一方的なメディア移行が進行しており、 その移行もすでに30%は終わっていると言えます。

ただし、電波放送はネットに比べ受信コストの安い媒体であり、災害時等における情報伝達や、 高止まりしているネット回線費用を抑え映像コンテンツを安く楽しみたい世帯に対しては有効な媒体です。 そのため、電波放送が消えることは無いと思われます。

また、テレビ放送とネットワーク動画に含まれるインストリーム動画広告の市場規模を見ると、 それぞれ、1兆7,347億円と3,837億円になっています(電通、日本の広告費2023)。 そのため、放送から通信への移行により、 ネット動画の広告市場は4倍程度まで拡大する可能性があるとも言えます。 しかし、ネット動画の広告市場が4倍となっても接触時間は2倍程度で収まる可能性が高いです。 つまり、現状、ネット動画については広告枠がまだまだ空いており、 現在の接触時間においても広告枠がすべて埋まれば2倍程度の広告市場になります。

これらをまとめると、次の10年(2034年ぐらいまで)のトラフィック増加としては、 現状の2倍程度、4Kが普及しても3倍程度であると予想します※5

※5 IoTやAIなどの人間以外が生成・消費するトラフィックについては、 それほど大きくならないと思われます。 つまり、現在のインターネットは、 一般ユーザーが支払うISP料金やファイバー料金などのネットワーク費用(国内で10兆円規模・GDP1%程度)により支えられていますが、 IoTやAIはそのマーケット規模が(今後伸びても)10兆円程度であり、 通信に回せる費用が市場規模の10%としても、たかだか1兆円程度であり、 大量のトラフィックを消費できるレベルにはありません。

株式会社Jストリーム 鍋島公章

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