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    /P▲         ◆ JPNIC News & Views vol.746【臨時号】2010.5.13 ◆
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◆ News & Views vol.746 です
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現在ITUには、「ITUを通じてIPv6アドレスを分配するスキーム」に関する議
論を行う、ITU IPv6グループが設立され、今後のIPアドレス管理体制に大き
な動きを起こす可能性もあるとして、話題になっています。そこで、本号で
は、このITU IPv6グループの設立経緯と現況についてお伝えします。

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◆ ITU IPv6グループの設立経緯と現況について
                                    JPNICインターネット推進部 前村昌紀
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本稿では、IPアドレス管理に大きな話題を投げかけている、ITU IPv6グルー
プに関して、現在までの動きを整理してお伝えします。

◆問題のあらまし

ITU IPv6グループが、ITU(International Telecommunication Union: 国際
電気通信連合)に設けられたIPv6に関する検討を行うグループであることは、
読んで字のごとくお分かりいただけると思います。

「ITUとIPv6」と聞いて、2004年頃、WGIG(Working Group on Internet
Governance)において、時のITU電気通信標準化局長のHoulin Zhao氏が、
IPv6アドレスの管理をITUを通じたスキームで行うべきだ、と主張していた
ことを思い出した方は、インターネットガバナンスの問題を注意して追って
いらっしゃる方だと思います。ITU IPv6グループは、正にこの「ITUを通じ
てIPv6アドレスを分配するスキーム」が議論されているグループです。

以下、IPv6グループが設立されるに至る、ITU内部での経緯を説明します。
なお、文中では、ITU内部の会議体、組織名称を多数使用しており、全体の
組織構造が分からないと理解しにくいと思いますので、財団法人日本ITU協
会提供のITU組織図(*1)もあわせてご参照ください。

(*1) http://www.ituaj.jp/03_pl/itu/sosikizu.pdf

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<ITUにおけるIPv6グループ設立までの経緯>
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1)2006年:ITU全権委員会議(アンタルヤ)決議102(改訂)(*2)

         WSIS(世界情報社会サミット)チュニスフェーズにおけるチュニス
         アジェンダに示された、インターネットガバナンスのあり方を検
         討するenhanced cooperation(*3)について、、TSB(電気通信標準
         化局)、BDT(電気通信開発局)に対して、検討や活動を深化させる
         活動を続け、年次理事会で報告するように指示している。

         (*2)http://www.itu.int/osg/csd/wtpf/wtpf2009/documents/ITUresolution102_publicpolicy_IPbasednetworks_PP06.html
         (*3)enhanced cooperation(拡大協力):
             チュニスアジェンダの第69項、第71項に示され、インターネッ
             トに関する各国政府の国際公共政策問題に対する関与の必要
             性を指摘するもの。
---------------------------------------------------------------------
2)2008年:上記1)を受けた、世界電気通信標準化総会(ITU-T総会)の決議64(*4)

         TSB局長に、BDT局長との密な協力により、IPv6の普及に向けた活
         動を進め、理事会に報告するように指示している。これによって、
         ITUによる、IPv6の総合サイト(*5)が開設される。

         (*4)http://www.itu.int/dms_pub/itu-t/opb/res/T-RES-T.64-2008-PDF-E.pdf
         (*5)http://www.itu.int/ipv6/
---------------------------------------------------------------------
3)2009年9月:ITU理事会に報告された、TSB局長による報告書「寄書29」

         2)の指示に基づき、進捗が報告された上で、以下が示される。

           a)2009年1月のITU-T SG3において、IPv6アドレスの分配に関す
             る途上国の懸念が複数呈されたこと。

           b)TSBから、マレーシアのIPv6普及機関であるNav6(National
             Advanced IPv6 Centre)に対して、CIR(Country-based Internet
             Registry:国ベースのインターネットレジストリ)スキームと
             呼ばれる、ITUをベースとしたIPアドレス分配機構の調査が指
             示され、その後、報告書が提出された(*6)。

           c)IPv6グループの設立が提案された。
 
           (*6)"A study on the IPv6 Address Allocation and
               Distribution Methods"
               http://www.itu.int/dms_pub/itu-t/oth/3B/02/T3B020000020002PDFE.pdf
---------------------------------------------------------------------

つまり、今回のITUによるIPv6アドレス分配という議論も、元をたどれば
WSIS(*7)での議論に端を発しているということが分かります。

(*7)JPNIC News & Views vol.316
    特集「世界情報社会サミット(WSIS)報告」
    http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2005/vol316.html


◆CIRスキームとはどういうものか

前述の3)において、CIRスキームという考え方が出てきています。これは
(*6)の報告書に記述されていますが、要約すると以下のようになります。

1. 現在の五つのRIRに加え、ITUがRIR同様にIANAからIPv6アドレスの割り振
   りを受ける。

2. ITUレジストリから、国ごとに設置されるCIRにIPv6アドレスが再分配さ
   れる。

3. CIRから分配されるアドレスに関しては、各国の事情を配慮して制定され
   た細やかなポリシーがCIRによって制定される。また、このことがインター
   ネットのルーティングを破壊する危険性は無い。

4. 現RIRによる独占状態には問題があり、競争環境が必要である。


◆APNIC29におけるコミュニティコンサルテーションセッション

IPv6グループの会合を10日後に控えたAPNIC29(2010年3月1日~5日)の会期中
に、このIPv6グループの動きに関して、コミュニティコンサルテーションと
称したセッションが持たれました。詳しくはJPNIC News & Views vol.731
(*8)のIP事業部奥谷による報告に譲りますが、このCIRスキームという考え
方に対して、APNICコミュニティ全体から異議が唱えられ、コミュニティ声
明文としてまとめられ、「IPv6グループ会合に対する寄書」として認められ
ました。

(*8)JPNIC News & Views vol.731
    APNIC29ミーティング報告 [第1弾] 全体報告
    http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2010/vol731.html


◆IPv6グループ会合

2010年3月15日~16日に、スイスのジュネーブで開催されたIPv6グループの
会合には、ITUの会員国以外にも、セクターメンバーであるAPNIC、ETNO
(European Telecommunication Network Operators Association)、ISOC、
RIPE NCCだけでなく、ARINも技術専門家として参加していました。
governance@lists.cpsr.orgというメーリングリストを通じて共有された議
事録案初版によると、発言者として挙げられている会員国は10ヶ国でしたが、
このうち、CIRスキームを支持したのは、2ヶ国でした。

特に強固にCIRスキーム支持を主張した国がその理由として挙げたものの中
には、インターネット用国際専用線の費用負担におけるアンバランス等、IP
アドレス分配に直接関係の無いものも含まれており、アドレス分配の現況に
ついて、正しい理解に基づきCIRスキーム支持を主張しているのか、論理的
にも疑わしく感じられました。

現行のRIRスキームを支持し、これに新たなスキームを加えることは適切で
ないという姿勢を打ち出している国も、数ヶ国ありました。また、AfriNIC
をはじめとしてRIR陣営も、全RIRに対して同一サイズのIPv6 ブロックが既
に分配済みであること等を理由に「現行スキームでニーズは満たしている」
と考えており、CIRによって解決したい問題の明確化が必要という指摘が相
次ぎました。

今回の会合の結果として、「IPv6普及問題を検討するCorrespondence Group
1」「CIRスキームを検討するCorrespondence Group 2」「ITU-T SG2、3、17
およびITU-D SG2へのリエゾン」の三つを設置することになったようです。

次回会合は、2010年9月1日~2日に、ジュネーブでの開催が予定されていま
す。


◆考察

当初、先述の報告書「寄書29」に基づき設立されたITU IPv6グループ、およ
びCIRスキームの問題は、RIR関係者の中で大いなる懸念とともに議論されて
きて、JPNICとしてもRIR関係者や政府関係者との間で連絡を密にし、情報把
握に努めてきました。

今回のIPv6グループ会合の様子から、ITUの中でもCIRスキームを支持するの
は、限られた国々であり、これに反対するインターネット関係者や会員国の
主張が多勢を占めていたことから、すぐに大きな動きにつながるものでなさ
そうだということが分かりました。

しかし、これは大きな動きが起こる可能性がないということではありません。

というのも、IPv6グループでは、ITUの会員国だけでなく、セクターメンバー
や技術専門家などの幅広い人たちにより議論されていますが、グループ自体
は、そもそもITUの意思決定機構の枠外に設けられている、すなわち意思決
定権を保持していないからです。ITUとしての意思決定はあくまで、ITU-T、
ITU-D(*9)各々の研究委員会(SGs)、世界電気通信標準化総会(WTSA)、世界/
地域電気通信開発会議(WTDC/RTDC)、およびITU理事会、全権委員会議で行わ
れ、これらで意思決定に関われるのは、ITUの会員国なのです。

また、2003年のWSISジュネーブフェーズで、実際にICANN体制に対する異議
が大きな議論を呼んだことを考えると、今後のITUの動きがIPアドレス管理
体制や、インターネットガバナンス全体に関する大きな動きを再び巻き起こ
す可能性があります。こうした状況を踏まえ、JPNICでは今後とも、これら
の状況に注視してまいります。

(*9) ITU-D: 電気通信開発部門


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       わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。
            http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html
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