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    /P▲        ◆ JPNIC News & Views vol.1439【臨時号】2016.10.3 ◆
  _/NIC
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◆ News & Views vol.1439 です
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2016年10月1日(土)に速報としてお伝えした通り、9月30日24時(東部夏時間、
日本時間では10月1日13時)をもって、米国政府からグローバルなインターネッ
トコミュニティへ、IANA監督権限が移管されました。

  「米国政府がインターネット重要資源の監督権限を手放しました
    ~今後はグローバルなインターネットコミュニティが監督~」
    https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2016/20161001-01.html

2014年3月に、米国商務省電気通信情報局(NTIA)が同省の持つIANAへの監督権
限を手放す意向を表明して以降、約2年半におよぶ移管プロセスがようやく終
了したことになります。

この移管が完了するまでには、長い議論を経た上で、直前までさまざまな政
治的な駆け引きも行われましたが、本稿ではこれまでの経緯も振り返りつつ、
今回の移管が持つ意味についてまとめます。

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◆ IANA監督権限移管実現 ~これまでの歩みとこれから~
                                   JPNIC インターネット推進部 前村昌紀
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■ はじめに

2016年9月の最終週、米国の動向を固唾をのんで見守っていた世界中のイン
ターネット関係者は、10月1日、ついに歴史的な瞬間を迎えました。

この日、ドメイン名、IPアドレス、プロトコル番号のいわゆる「インターネッ
ト資源」の台帳管理を行うIANA (Internet Assigned Numbers Authority) 機
能に関して、米国政府が持っていた監督権限が、ついにグローバルなインター
ネットコミュニティに移管されました。

2016年3月に移管後体制の提案がコミュニティから米国政府に提出されて以
来、準備は順調に進みましたが、9月に入ると米国議会を中心に、この移管を
引き留めようとする動きが激しくなり、予定通りに移管が実現するかは、移
管実施前日の9月30日になっても判然としませんでした。

そんな中、米国時間で日付が変わった直後に、9月30日を満了日としていた
IANA機能に関する、米国政府とICANNの間で結ばれていた契約が満了したこと
が発表されました。これによって、満了を契機として効力を発すると定めら
れた移管後体制に関する契約群が有効となり、自動的に新しい体制へと移行
したことになります。


■ これまでのおさらい ~IANA監督権限移管の検討と準備の流れ~

IANA監督権限移管に関しては、2014年3月14日に米国商務省電気通信情報局
(NTIA)が、それまで同省が有していた監督権限をグローバルなインターネッ
トコミュニティに移管する意向を発表して以降、世界中のインターネット関
係者が移管後体制に関する提案作成に参画してきました。

2016年3月10日、ついに完成した提案がNTIAに提出され、NTIAは6月9日に、そ
の提案が移管要件を満たすとする審査報告書を公開しました。さらに8月16日
には、進捗良好とするICANNからの実施準備進捗報告書を受けて、「今後大き
な障壁がなければ、9月30日に現状のIANA契約を終了し、移管を実施する」意
向を発表していました。ここまでは、インターネットコミュニティ側の準備、
NTIAの反応ともに、9月30日の移管に向けて順調に進んでいました。


■ 米国国内の政治的状況

「今後大きな障壁がなければ」の「大きな障壁」で最も強く懸念されたのは、
米国内の政治的状況でした。米国議会ではIANA監督権限移管に関して、その
準備に掛かる予算執行の禁止、あるいはより直接的に、議会が承認しない限
りIANA契約終了を認めない法案を提出するなど、共和党を中心とする移管反
対派の活動が続きました。このあたりの詳細は、JPNIC News & Views 9月定
期号(vol.1435, 2016年9月16日発行) をご参照ください。

・JPNIC News & Views vol.1435【定期号】2016.9.16
  「IANA監督権限を、米国は手放すか - 期限までいよいよあと2週間 -」
   https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2016/vol1435.html

米国の会計年度は10月に始まるのですが、間際になっても次年度予算の承認
の目処が立たない場合、10月以降も今年度予算に基づく予算執行を認める趣
旨の、予算継続決議が審議の焦点となります。しかし、予算継続決議が9月中
に決議できない場合、10月以降連邦政府の活動はできなくなります。そのた
め、この継続決議案に対する付随条項として、喫緊に対処したい政策を含め
てまとめて承認させるというのが、この時期の米国議会において行われる駆
け引きのようです。

この付随事項の一つとして、IANA監督権限移管禁止が盛り込まれようとして
いました。他にもいくつかの政策事項が候補に挙がるため、その中での取捨
選択が、党や議会での調整を通じて行われます。結局、予算継続決議には移
管禁止は盛り込まれない形で決議案が固まり、9月28日に上院下院で決議され
ました。この時点では、移管がぐっと現実味を帯びてきたという雰囲気が関
係者の間で漂いました。

しかしながら、これで話は終わりませんでした。

同日9月28日、アリゾナ、オクラホマ、テキサス、ネバダの4州から、商務省、
NTIAおよびそれぞれの長官を相手取って、IANA契約を満了させず延長させる
ことを求める、暫定差し止め命令要求が、テキサス州南部連邦地方裁判所に
提出されました。これによって再び、IANA契約の終了に関する結論に待った
が掛かった形になりましたが、要求は9月30日に却下されました。

 ・Texas AG Ken Paxton Files Lawsuit to Stop Obama Administration
   From Handing Control Over the Internet to International
   Organization (テキサス司法長官のKen Paxton、国際機関にインターネッ
   トのコントロールを手渡そうとするオバマ政権を止める訴訟を起こす)
   https://texasattorneygeneral.gov/news/releases/texas-ag-ken-paxton-files-lawsuit-to-stop-obama-administration-from-handing

 ・訴訟のヒアリング議事録と命令
   http://www.circleid.com/pdf/iana_hearing_minute_160930.pdf


この後、NTIAは9月30日中に契約延長の通告をせず、IANA契約は期間満了を
もって失効しました。NTIAは米国東部時間で10月1日となった、日本時間同日
13時過ぎに短い声明を発表しました。

 ・Statement of Assistant Secretary Strickling on IANA functions
   contract(IANA機能の契約についてのStrickling長官の声明)
   http://www.ntia.doc.gov/press-release/2016/statement-assistant-secretary-strickling-iana-functions-contract


■ 歴史的な第一歩

IANA監督権限移管提案に盛り込まれた機構を定める契約や覚書の多くは、IANA
契約の失効によって効力を発するように定められていますので、この契約失
効とともに、IANAの監督権限が、グローバルなインターネットコミュニティ
による機構に移管されることとなりました。

IANA監督権限移管の実現に際して、IANA契約の受託者としてNTIAのカウンター
パートとして事に当たったICANNをはじめとして、関与した各団体はそれぞれ
に声明を発表しています。

 ・ICANNからの声明

   Stewardship of IANA Functions Transitions to Global Internet
   Community as Contract with U.S. Government Ends
   (米国との契約終了に伴い、IANA機能の監督権限がグローバルなインター
   ネットコミュニティに移管される)
   https://www.icann.org/news/announcement-2016-10-01-en

 ・ICANNによる直前の実施準備状況の整理

   Final Implementation Update
   https://www.icann.org/news/blog/final-implementation-update

 ・ICANN理事会議長、Steve Crocker氏の声明

   Cheers to the Multistakeholder Community
   https://www.icann.org/news/blog/cheers-to-the-multistakeholder-community

 ・IANA監督権限移管調整チーム(ICG)からの声明

   ICG Applauds Transfer of IANA Stewardship (IANA監督権限移管を称賛)
   https://www.ianacg.org/icg-applauds-transfer-of-iana-stewardship/

 ・IETF議長、Jarri Arkko氏の声明

   IANA Stewardship Transition Goes Ahead (IANA機能監督権限移管が進む)
   https://www.ietf.org/blog/2016/10/iana-stewardship-transition-goes-ahead/

 ・ISOCからの声明

   Internet Society congratulates global Internet community on
   successful IANA stewardship transition
   (ISOCはIANA監督権限移管の成功に際し、グローバルインターネットコミュ
    ニティを祝福)
   https://www.internetsociety.org/news/internet-society-congratulates-global-internet-community-successful-iana-stewardship-transition

 ・CRISPチームのチェア奥谷泉およびNurani Nimpuno氏からの声明

   Completion of the IANA Stewardship Transition to the global
   Internet Community
   (グローバルインターネットコミュニティへのIANA監督権限移管が完了)
   https://www.nro.net/pipermail/ianaxfer/2016-October/000800.html

 ・APNICからの声明

   #YestoIANA! Community takes responsibility for IANA functions
   (コミュニティがIANA機能の責任者に)
   https://blog.apnic.net/2016/10/02/yestoiana-community-takes-responsibility-iana-functions/


■ 「歴史的な第一歩」の意味

インターネットは、世界中のさまざまな異なる人々によって運営されるネッ
トワークが相互接続された総体であり、その総体を、単一の組織ではなくさ
まざまな人々が分散、協調して運営管理するというのが特徴です。その中で
例外的なものが、インターネット上で多対多の通信を実現するためのプロト
コルの標準化と、インターネット上で通信主体を識別する識別子である、IP
アドレスとドメイン名です。これらも、IPアドレスの地域分割による管理分
担やドメイン名の階層管理など、できるだけ分散協調で管理されるようになっ
ていますが、これらの源泉、つまり、大元の台帳を管理することだけは、単
一の組織でしかできません。他にも多数の要素がなければ決して動かないイ
ンターネットの中で、一つだけある集中管理機能がIANAということです。

インターネットは米国が発祥であり、研究ネットワークの開発、相互接続に
端を発しています。これら黎明期の開発やネットワーク運用には米国の予算
がつぎ込まれており、NIC機能と呼ばれる識別子管理に関しても例外ではあり
ませんでした。これに動きがあったのは1990年代半ば。商用化するインター
ネットにおけるドメイン名管理の問題について、グローバルな広がりで議論
が行われる中で、1997年、米国はIANA機能全体を民間に移管することを提案
します。つまり、それまでのIANA機能は米国政府からの委託により運営され
ていたという立場を採った上で、民間の新会社に移行されることが好ましい
としました。

この新会社がICANNで、1998年に設立されました。米国政府は民間への移管を
共同で行うとして、ICANNとの間でIANA契約を結び、IANA機能の運営を委託す
る、という形を取りました。この見守りの期間は「最長で2000年9月30日ま
で」としていましたが、結局、当初の想定を16年間先伸ばしにしたというこ
とです。手を放すとは口先ばかりだったのではないか、という声が聞こえて
きそうです。

しかし、ここまでの資源管理体制の変遷を見ると、APNICでアドレスポリシー
SIGを通じたポリシー策定が始まったのが2000年で、その後コミュニティがボ
トムアップなアドレスポリシーの制定に取り組み、自分のものしていきまし
た。LACNIC、AFRINICが設立されたのはそれぞれ2002年、2005年。ICANNは2002
年頃の大掛かりな組織改革に加え、定期的な組織改正を行い、さらに、2014
年以降は説明責任機構の検討にたくさんの労力を費やして、2年半の期間を掛
けてようやく移管後体制の検討が完了したのです。

これらを踏まえると、結局、移管までの16年間は必要な時間だった、と考え
ることもできます。

体制検討と実施準備に費やした2年半は、IPアドレス、ドメイン名、プロトコ
ルパラメータそれぞれのコミュニティが今まで取り組んで整備してきた、そ
れぞれの方針検討機構を活用した上で、さらに三つの性質の異なるコミュニ
ティが協働した期間でした。JPNICインターネット推進部の奥谷泉は、IPアド
レス提案の取りまとめ役であるCRISPチームのチェアとして、外のコミュニ
ティとの調整や折衝にもあたりました。このように三つのコミュニティが協
力し合って、IANAの全体像を形作るということも、かつてないことでした。

このようなプロセスを通じて、NTIAの要件に合致する提案を作り上げ、さら
に実施準備を円滑に進めることができたことは、関係者自身が方針検討や管
理に関与するという、インターネットの運営精神に則ったプロセスの有効性
を証明するものと言ってよいと思います。

そして、10月1日をもって、米国政府がIANA監督権限を手放したことで、これ
からはコミュニティ自身がIANA機能を監督する役目を担うだけでなく、その
他一切の資源管理に関する責任を、コミュニティが負うことになりました。
これが、本件が歴史的である理由です。「監督する人がいなくなった」とい
うところから、「大人になった」と表現する人もいます。今までは、親とま
では言わないまでも、異質な第三者が監督しているということで、何か安心
感のようなものが、あったかもしれません。これからは、大人ですから、す
べて自分たちで責任を取っていく必要がある、ということです。この2年半の
大仕事には大きな賞賛が寄せられ、コミュニティプロセスの有効性が証明さ
れたと上にも書きましたが、これからは作った機構を、万一不備があれば修
正することも含めて、運用していかねばなりません。真価が問われるのはこ
れから、ということが言えるのではないでしょうか。


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       わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。
             https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html
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 JPNIC News & Views vol.1439 【臨時号】

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