━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ __ /P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.2048【臨時号】2024.1.11 ◆ _/NIC ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ News & Views vol.2048 です ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2023年10月下旬に、ドイツ・ハンブルクで第78回ICANN会議が開催されまし た。ICANN設立から25周年の節目での開催となった、本会合の動向をご紹介 します。 なお、本会合については、すでに報告会を開催しておりますので、報告会の 資料や動画も併せてご覧ください。 第68回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20231130-ICANN/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ 第78回ICANNハンブルク会議報告 JPNIC 政策主幹 前村昌紀 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第78回ICANN会議(以下、ICANN78)は、2023年10月21日(土)から26日(木)まで ドイツのハンブルクで開催されました。 暫定CEOを務めるSally Consterton氏のブログ記事"A Look Back at ICANN78" (*1)などの振り返り記事によると、1,800名以上が現地参加、600名以上がバー チャル参加、参加者の国籍は175ヶ国に上り、参加者の半数が欧州から、アジ ア太平洋地域からの参加者は15%だったとのことです。 (*1) https://www.icann.org/en/blogs/details/a-look-back-at-icann78-03-11-2023-en 本稿では、ICANN設立25周年関連行事、gTLDに関する動向に加え、年次総会に おける理事の交代など機構全体のガバナンスに関する動きを中心にご報告し ます。 ■ ICANN設立25周年 ICANNが1998年10月に設立されてちょうど25周年を数える節目となった今回 は、それを記念するセッションが二つ開催されました。23日(月)に開催され た"25th Anniversary Session"(*2)は、長らく理事会議長を務めた Steve Crocker氏、米国電気通信情報局(NTIA)でIANA監督権限移管への対応を指揮し たLarry Strickling氏、現RIPEコミュニティ議長で黎明期からRIPE NCCに長 らく務めたMirjam Kuhne氏、初期に8年間理事を務めいまだに活躍中の Alejandro Pisanty氏をはじめとするパネルで、暫定CEO Sally Costerton氏 がセッションコーディネーターを務めました。グローバルなインターネット の運営をまったく新しいマルチステークホルダーアプローチで取り組んだ ICANNの初期の苦労話や成果、また今後に向けた展望が示され、参加者もフロ アマイクから積極的に意見表明をしました。 25日(水)の夜には、会議場の大ホールで25周年パーティ"ICANN 25th Anniversary Celebration"が開催されました。参加者が思い思いに会話を楽 しんだり、ダンスの輪ができたりというのは普段のレセプションと変わらな いところでしたが、壇上のスクリーンに25年間を振り返る画像が流れるのを 眺めながら、当時の話に花が咲き、ICANN 25年の歩みを噛み締めるようなシー ンもありました。 (*2) https://icann78.sched.com/event/1T4Hn/25th-anniversary-session ■ gTLD関連 新gTLDの次期ラウンドに関しては、既に実施準備作業に入っており、いくつ かのセッションで事務局からアップデートが行われました。実施準備によっ て作成される申請者ガイドブックの準備も計画通りで、2025年4月ごろの完成 が見込まれ、申請開始は2026年第2四半期の見通しとのことでした。 実施準備中のもののもう一つは、gTLD登録データに関する暫定仕様書に関す る迅速EPDPのフェーズ2(非公表登録データの開示請求方法)の勧告の後、実施 準備段階で仕様を大幅に簡素化したRDRS (Registration Data Request System)が準備完了目前ということで、いくつかのセッションで担当者がアッ プデートを行っていました。ICANN78会議後の2023年11月29日に利用が開始さ れ、JPNICではICANNからのリリース文を和訳して提供しています(*3)。レジ ストラのRDRSへの参加は任意となっていますが、2018年5月のGDPR(欧州連合 一般データ保護規則)の施行に伴って多くのWHOISデータ項目が非開示となり 請求が煩雑困難となっていた問題に対して、5年越しで対処策が講じられたと いうことになりますので、今後参加レジストラが増え、利用者が増えていく ことを望みます。 (*3) https://www.nic.ad.jp/ja/icann/topics/2023/20231208-01.html GNSOにおけるポリシー検討としては、IDNに関する迅速PDP (IDN EPDP)が大き な節目を迎えました。IDN EPDPではフェーズ1としてトップレベルにおける IDN gTLDの定義と異体字IDNの管理に関して、フェーズ2としてセカンドレベ ルにおける異体字IDNの管理に関して検討を行いますが、7月に公表されてい た69の勧告を含むフェーズ1報告書がEPDPチームのフルコンセンサスによって 採択され、会期後の11月8日にGNSO評議会に提出されました。ICANN78では三 つのワーキングセッションを通じてフェーズ2の議論を進めましたが、次期ラ ウンドに影響する問題の検討を急ぐべく、会期後12月初旬にもマレーシア・ クアラルンプールで対面会合を持ったようです。 ■ 理事の交代 年次総会は理事任期の節目にあたり、理事の退任、着任によって陣容に変化 があるタイミングです。今回は2名の入れ替わりがありました。まず、GNSOの 非契約者会議選出のMatthew Shears氏が退任し、Chris Buckridge氏が着任し ました。Shears氏は2期6年を務めた中で、新たに理事会戦略計画委員会を立 ち上げ、チェアを務めて牽引しました。Buckridge氏はAPNIC勤務の後RIPE NCCに移り、長らくインターネットガバナンスや国連会議体対応などを担当 し、今年RIPE NCCを退職しました。2021年からはIGFのマルチステークホル ダー諮問委員会(MAG)メンバーを務めており、技術コミュニティでは良く知ら れた方です。次に、推薦委員会選出のAvri Doria氏が退任し、Catharine Adeya氏が着任しました。Avri Doria氏はGNSOを中心に長らくICANNのプロセ スに参加してICANNコミュニティで知らない人がいないほどの活躍ですが、2 期6年での退任となりました。Adeya氏は、ケニヤでデジタル技術分野のエグ ゼクティブを官民双方で歴任するベテランです。レセプションでご挨拶させ ていただきましたが、朗らかで笑顔が印象的な女性でした。 ■ グローバルインターネット基盤の技術調整を考える ICANNはその活動のほとんどがgTLDを中心としたドメイン名に関することと 言って過言ではありませんが、ICANN78ではRIRに関する問題への対応が目立っ た会議となりました。問題が起こっているのはアフリカ大陸を管轄する AFRINICで、IPアドレスポリシーに従わない会員に対する措置をめぐって多数 の訴訟に持ち込まれ、一部差し止め請求が受理されたことで理事会が意思決 定できない機能不全状態に陥っています。2023年9月には、モーリシャス最高 裁が管財人を指名し、機能不全状態からの回復作業に着手しました。ICANN は、管財人に対して専門家の立場から助言を行うためにCTOのJohn Crain氏を AFRINICに派遣するとともに、法務セクションが法務的処理を中心に中立的な 支援を行っています。オープニングセレモニーでは、理事会議長Tripti Sinha 氏が開会挨拶でAFRINIC支援に言及するとともに、その後にNROを代表して挨 拶したARIN CEOのJohn Curran氏が詳しい説明を行いました(*4)。Curran氏は これに引き続き、ASOと理事会の合同会議でも、管財人の業務も事態が二転三 転しているなど現時点の状況を仔細に説明しました(*5)。 (*4) オープニングセレモニー速記録 https://static.sched.com/hosted_files/icann78/be/TRANSC_I78HAM_Mon23Oct2023_Welcome%20Ceremony-en.pdf (*5) ASO理事会合同会議速記録 https://static.sched.com/hosted_files/icann78/9b/TRANSC_I78HAM_Tue24Oct2023_Joint%20Session%20ICANN%20Board%20and%20ASO-en.pdf 11月25日(水)に開催され、"Global Internet Infrastructure Technical Coordination Meeting"(*6)と題されたセッションは、上述のような問題を抱 える状況の中、印象的なセッションでした。セッションタイトル以外に何も 分からない状態ながら、参加者が数十名に上りました。モデレーターのICANN 理事のChristian Kauffman氏と理事会議長のTripti Sinha氏が、冒頭「この ようなコーディネーショングループは必要か」「その主目的はどうするか: 情報共有か調整活動か」「どのような運営形態か」と言った単純な問いかけ を提示して、会場に集まった参加者がこれに応える、という形式でした。問 いかけに対して、漠然とし過ぎて戸惑う声も聞かれましたが、プロブレムス テートメントを最初に作るべきだ、といった議論運営上建設的な意見も見ら れました。ここでICANN理事会が作り込んだペーパーを示して議論が始まる と、ICANN主導のような印象が強まりかねないところ、ゼロから話を聞く姿勢 を見せたことは、重要だったのではないかと思います。深刻な問題も発生す る中で、さらに永続的で安定したグローバルインターネット基盤の技術調整 が求められている中、改めてどのような体制で臨むべきなのか、それに携わ る当事者たちが真剣に考える時期が来ているように思います。 (*6) https://icann78.sched.com/event/1T4IZ/global-internet-infrastructure-technical-coordination-meeting?linkback=grid-full ■ 最後に ICANN会議報告が大幅に遅れてしまい、ICANN報告会開催の後となってしまい ました。第68回ICANN報告会は2023年11月30日(木)に開催され、常連参加者の 皆さんからご報告いただきました。各SO、ACからの詳細な報告が含まれます ので、ぜひ資料や録画をご覧ください。 第68回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20231130-ICANN/ 次回ICANN79・コミュニティフォーラムは、2024年3月2日(日)から7日(木)に かけて、プエルトリコのサンファンで開催されます。ハイブリッド形式なの で、ほぼ地球の真裏となり時差は厳しいですが、日本から遠隔参加すること もできます。既に参加登録は始まっています。 ICANN79 Community Forum - San Juan https://meetings.icann.org/en/icann79 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。 https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html ◇ ◇ ◇ メールマガジン以外でも、情報を発信しています! 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