◆◆【 1 】特集 ◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇ 第55回IETF報告 2002年11月17日~22日、アメリカのアトランタにて第55回IETFが開催されまし た。全体会議にあたるIESG Plenary Meetingでは34ヶ国から約1700名が参加し、 会場となったMariott Maquis Hotelでは、連日多くのWorking Group(WG)に て活発な議論が繰り広げられました。本特集では、第55回IETFにおける国際化 ドメイン名の標準化状況、セキュリティ関係WG、その他いくつかのWGの最新情 報をお届けします。 ※IETFとは何か知りたい方はこちらをご覧ください http://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/ietf.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇ 1. 国際化ドメイン名(Internationalized Domain Name;IDN)の標準化状況 JPNIC IDN-TF/NTTソフトウェア株式会社 米谷嘉朗 2002年10月21日にIDN WGの成果であるSTRINGPREPが、24日にIDN WGの提案であ るIDNA、NAMEPREP、Punycodeが相次いでRFC化の承認を受けました。各方式の 概要についてはJPNIC用語集(http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html) をご参照ください。RFC発行までには、RFCエディタによる編集作業やIANAによ るパラメータの割り当てなどの作業が残っているため、まだ若干の時間がかか る見込みです。 WGとしてはほぼ作業を終了しましたので、前々回、前回に引き続き、今回も IETF期間中にIDN WGの会合は開催されず、11月18日にWGチェアの一人である Marc Blanchet氏からWGのメーリングリスト宛に、RFCが発行された時点でWGは 活動を終了するというアナウンスが行われました。ただし、WGのメーリングリ ストは存続しますので、議論の場がなくなるということではありません。今後、 新たにIETFで議論すべきIDNの課題があがった場合は、新たなWGを設立するこ とになります。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇ 2. セキュリティ関連WG報告 JPNIC セキュリティ事業準備室 木村泰司 IETFのセキュリティエリアには多数のWGがあり、ほとんどのWGのセッションが 開かれていました。そのためIETFの期間中は、毎日複数のセキュリティエリア のWGのセッションが開かれていました。 WGのセッションは、Internet-Draftドキュメントに関する発表と意見交換が行 われますが、基本的なプロトコルが決まっていないWGでは、モデルや requirements(要求事項)に関する意見交換が行われることがあります。 具体的には、INCH(Extended Incident Handling)やMSEC(Multicast Security)などのWGでは、プロトコルの確立の為の提案やrequirementsに関す る議論が行われました。 SMIME(S/MIME Mail Security)、TLS(Transport Layer Security)、PKIX (Public-Key Infrastructure (X.509))などの、基本的なプロトコルが決まっ ているWGのセッションは、拡張機能や新たな利用法の提案などについてのプレ ゼンテーションと意見交換が行われました。SMIME、TLSはプロトコルの拡張が 主な議論内容ですが、興味深いトピックがあり、多くの人たちの関心を集めて いました。 ◆PKIX(Public-Key Infrastructure (X.509))WG PKIX WGでは議論を行っているInternet-Draftが12本あり、証明書の拡張に関 する提案、相互運用性に関する報告と内容が多いため、WGセッションは、若干 時間に追われながらの進行となりました。PKIX WGでは今年の4月に基本となる プロファイルを定義したRFC3280を出しているため、今回のWGセッションでは 主にその後にMLで議論されてきた提案内容が議論されました。 セッションで議論された主なInternet-Draftは以下のものです。 - Logotypes 証明書の証明内容として、音声や画像を扱うための拡張です。この Internet-DraftはLast callの状態にあることが報告されました。 - CVP(Certificate Validation Protocol) 証明書の検証や証明書のパス構築を別のサーバに依頼して行うためのプロ トコルですが、依頼の際に検証ポリシーを問い合わせたり、一つのポリシー で複数の証明書を扱うことなどができます。 - LDAPv3 Schema LDAP(Light-weight Directory Access Protocol)を使って証明書を格納 する際に使われる書式です。特にバイナリ値を格納する際の書式について 議論されました。 - Warranty Extention 証明書の証明内容の保証に関する拡張です。 - Subscriber Identification Method 韓国で使われているユーザIDを証明書に格納する際に、ハッシュ関数を施 した値を使う方法です。プライバシーを考慮して、その値からユーザIDを 求められないようにしています。 またセッションの最後にはJNSA(Japan Network Security Association)によっ て昨年度に行われた、相互運用性実験ChallengePKI 2001の報告書に関する連 絡と今年度の実験の概要について紹介されました。 PKIX WG http://www.ietf.org/html.charters/pkix-charter.html ◆IPSEC(IP Security Protocol)WG IPSEC WGはAH(Authentication Header)、ESP(Encapsulating Security Payload)、IKE(Internet Key Exchange)とPKIの証明書の扱いと、多くの議 論内容があるため、セッションが2回行われたにもかかわらず、それぞれが多 岐にわたる内容になりました。また参加者は200名を超える程で、注目されて いるセッションであることが伺えました。 主な議論は以下のとおりです。 - AES(Advanced Encryption Standard)の利用、NATを超えた利用などに関 するInternet-Draftの状況報告 - IKEにおける署名の扱い - IPsecで証明書を使うためのプロファイル - RSAの署名による認証 - IPv6とIPsecの利用 利用方法についてのさまざまな質問や議論が出されました。 - 暗号と安全性に関する話題 - IKEの次の開発項目 IKEをどう実装していくかについての討論も行われました。セッションの最後 のほうでは座席に座れずに、立って参加する人が現れるほど多くの人が集まっ ていました。 IPSEC WG http://www.ietf.org/html.charters/ipsec-charter.html セキュリティエリアには、プロファイルの決定など大事な段階にあるWGがあり ます。日本の技術力を生かした活動が、標準化される技術をよりよくすること が十分に考えられます。IETFにおいて日本の技術者が積極的に発言できる環境 と機会作りが重要でしょう。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇ 3. その他WG報告 JPNIC 技術部準備室 上野晶久 その他、興味深いWGについていくつかご紹介します。 ◆CRISP(Cross Registry Information Service Protocol)WG CRISPとは、各インターネットレジストリへの問合せ方法、およびリソース情 報取得方法を統一化するためのプロトコルです。CRISP WGは、このCRISPの仕 様を定義することを目的として設立されました。今回のMeetingではCRISP Requirementドキュメントの見直しが提案され、承認されました。また現在WG として推進しているドラフト(IRIS、LW)についての現状報告が行われました。 CRISP WG http://www.ietf.org/html.charters/crisp-charter.html ◆ENUM(Telephone Number Mapping)WG ENUMとは、DNSを用いてインターネット電話で使用される電話番号とインター ネットリソースの対応付けを行う方式です。ENUM WGは、この方式の定義を目 的としています。今回のMeetingではENUMサービスを定義しているRFC2916bis ドラフト内のサービスフィールド書式の見直しが行われた後、ENUMサービスに おけるSIPおよびH.323の使用方法を定義した新規ドラフトの承認が行われまし た。 ENUM WG http://www.ietf.org/html.charters/enum-charter.html ENUM用語解説 http://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No21/080.html ◆PROVREG(Provisioning Registry Protocol)WG PROVREG WGは、インターネットレジストリ登録者が複数のレジストリに対して 共通の手順とインターフェイスにより登録・更新作業を行うことを可能とする PROVREGの仕様を定義することを目的としたWGです。プロトコルを定義したド ラフトが、すでにRFC化される前段階にあるIESGの審査に入っていることから、 WGは当初の目的をほぼ達成し収束へと向かっていますが、今回のMeetingにお いてはIESGからのコメントに対して更に細かな文言の調整が行われました。 PROVREG WG http://www.ietf.org/html.charters/provreg-charter.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇ 4. IETFお役立ち情報 o Internet-Drafts Status Trackerが公開されました! 1つのInternet-Draftが晴れてRFCになるまで、様々なステップが踏まれま す。気になるInternet-Draftが現在どのような状況にあるか、瞬時に調べ られるツールができました。下記URLよりぜひお試しください。 https://datatracker.ietf.org/public/pidtracker.cgi o IETFでのプレゼンテーションはIETFのWebサイトに掲載されています。 http://www.ietf.org/proceedings/directory.html 第55回のMeetingのプレゼンテーションも徐々に掲載され始めています。 IESG Plenaryのプレゼンテーションは上記には未掲載ですが、以下のURLに 掲載されています。 http://www.alvestrand.no/ietf/ietf55/ o IETF全体に関するアナウンスや議論は、IETFメーリングリストで行われます。 http://www.ietf.org/maillist.html ietf-annouce@ietf.org:IETF Secretariatからのアナウンス。 Internet-DraftやRFCの発行、IETF Last Call、 IETF会合に関する情報など。 ietf@ietf.org :IETF全体に関する議論。誰でも投稿できます。