ニュースレターNo.25/2003年11月発行
特集1:IPv6アドレス関連最新動向
1. IPv6を取り巻く状況
2003年、IPv6インターネットは世界規模で劇的な変化を見せています。米国では、国防省が2008年をめどにIPv6への全面移行を表明し、2003年6月13日のニュースリリース☆1では、その移行プランが詳細に述べられています。ヨーロッパではEUが中心となって進めている数多くのIPv6関連研究プロジェクトが活発に活動しており、また、商用利用も始まっています。アジアに目を向けますと、マレーシア、韓国等でIPv6に対する取り組みの気運が高まっており、また、中国では、SARSの影響もあり活動が停滞していた感もありますが、IPv6を含めたIT関連への国を挙げての取り組みが進んでいます。日本においては、他地域に先駆けて進んでいるIPv6の商用サービスの拡大はもとより、ビルオートメーションやセンサネットワークといった方面へのIPv6の適用検討が進んでおり、従来のインターネットではカバーされていなかった領域へ進展しています。
本特集では、IPv6の、特にアドレスに関連する話題について、最近の動向を解説します。
2. IPv6アドレスの現状
まず、IPv6のアドレス体系、およびそのアドレス配布ポリシー、配布状況について概観します。
●IPv6アドレス体系
IPv6プロトコル自体の詳細はRFC2460☆2にて規定されていますが、128bit長のアドレス構造については RFC3513☆3に、実際にアドレス割り振り対象となるユニキャストアドレスの構造についてはRFC3587にて決められています。
このRFC3587☆4では、それまでに規定されていた階層的なアドレス割り振りを意識した、TLA ID(Top-Level Aggregation Identifier)、NLA ID (Next-Level Aggregation Identifier)、SLA ID(Site-Level Aggregation Identifier)といったアドレス内部構造に関する記述は削除されており、図1に示すようなアドレス構造が定義されています(すなわち、TLA、NLAといった言葉はRFC的には定義がなくなっています)。
図1.グローバルユニキャストアドレスのフォーマット※1 |
このように改訂された理由は、図1の“global routing prefix”をどのような長さで配布するかは、その時点でのIPv6インターネットの状況を鑑みてアドレス配布ポリシーにて決定するものであり、RFCのような技術的な観点から決めるものではない、という考えに基づいています。
●IPv6アドレス配布ポリシーとアドレス配布状況概略
IPv6アドレスは1998年に配布が開始されました。当初決められたアドレス配布ポリシーは、未規定部分が多く、実際にプロバイダが商用サービスを始める際に問題になることが予想されたため、日本の有志により改定が提案されました。その結果、2002年7月より施行されている配布ポリシー☆5によるアドレス配布が実施されています。施行直後よりアドレス取得数が急増し、2003年10月現在では世界で450を超える組織がIPv6アドレスを取得しています☆6(アドレス取得状況については本誌の統計情報もご参照ください)。
最近特筆すべきことは、先にも述べました米国国防省のIPv6移行の声明が出された後から、米国でのアドレス取得数が急増していることです。地域別にみるとARIN地域での割り当て数はここ1年で倍増しており、国別に見ても、米国のアドレス取得数は日本を抜いて世界第1位となっています。
3. IPv6アドレスに関する最近のトピックス
本章では、IETFや各地域インターネットレジストリ(以下、RIR)等における、IPv6アドレスに対する新たな動きについて紹介します。
●サイトローカルアドレスの廃止と一意ローカルIPv6ユニキャストアドレス
IPv6標準化当初から、インターネットに接続されない組織内での利用を想定し、IPv6サイトローカルアドレスが規定されていましたが、このアドレスは利用停止となることが決定しており、現在代替アドレスの規定が進んでいます(利用停止の理由については、ドラフト☆7に詳しく書かれています)。
代替となる「一意ローカルIPv6ユニキャストアドレス」は現在まだドラフト段階ですが☆8、図2のようなフォーマットを持つこと、およびプリフィクスを7ビット、グローバル識別子を41ビットとすること、FC00::/7をその領域とすることが提案されています。
図2.一意ローカルIPv6ユニキャストアドレス |
今までのサイトローカルアドレスと大きく違うことは、自由に利用可能なローカルアドレスでありながら、そのアドレスの一意性を確保しようとしていることです。
一意性とアドレス利用の利便性を両立するする方法として、アドレス空間を二分し、それぞれの空間を別個に管理することとしています。具体的には、FC00::/7以下を以下のように更に二分し、それぞれに異なった一意性の保証度合いとすることにしています。
FC00::/8 管理組織による割り当てを実施する領域(Centrally assigned)
FD00::/8 独自割り当て領域(Locally assigned)
前者の空間は、RIRのような特定の管理組織が重複なくグローバル識別子を割り当てる※2ことによって一意性を保証しますが、後者はランダムにグローバル識別子部分を選ぶことでアドレス取得の手間はありませんが、完全な一意性は保証されない、としています。
また、この一意ローカルユニキャストアドレスの有効範囲は、組織内での利用と規定されていたサイトローカルアドレスとは違い、グローバル、とされています。しかしながら、このアドレスは経路集成を考慮していないため、インターネット内で広域にルーティングされるものではないとしており、インターネット内での到達性は保証されません。
●文書記載用ユニキャストプリフィクス
技術文書、記事、各種資料に記載するためのアドレス空間として、
2001:0DB8::/32
が利用可能です☆9。この空間はAPNICにより確保されており、上記目的のために自由に利用してよいことになっています。また、このアドレス空間についてはIETFでも標準化にむけた提案がされています☆10。
●現行IPv6アドレスポリシーの見直し
現在、IPv6アドレスは前述のアドレスポリシーに従って配布されていますが、施行から1年以上たち、いくつかの問題が提起されています。その主なものは、
- 初期割り振り基準に関する問題。現行の取得条件が厳しすぎるのではないか、といった点。
- closedネットワーク(インターネットにつながらないが、アドレスの一意性が必要なネットワーク)に対する割り当ての問題。
- IPv4でいうPI(プロバイダ非依存)アドレスに関する問題。マルチホーミングをしたい組織による要望。
等です(JPNICによる見直し案が☆11に掲載されています)。現在APNICでもこれらの問題について、どのように対処を進めていくべきかの議論が進んでいます。
IPv6のアドレス配布ポリシーに関しては、ポリシーについて話し合うための全世界的なメーリングリストglobal-v6☆12で議論されています。このメーリングリストはどなたでも参加可能ですので、興味のある方は是非ご参加ください。
●従来インターネットが使われていないところでのアドレス割り当て要望
現行ポリシーの見直しにも関連しますが、IPv6の豊富なアドレス空間を利用するための、新しいアドレス割り振りに対する要望が起こり始めています。たとえば、ベンダが自社の製品にIDとしてIPv6アドレスを埋め込み、製品のオンライン登録や遠隔保守に利用するといったものです。
現状のIPアドレス配布ポリシーは、IPアドレスはインターネットサービスプロバイダに対して割り当てることを前提としており、このような要望には対応していません。また、上記の例では、そもそも製品IDとしてIPv6アドレスを利用することの是非も問題になります。
このような新たなIPv6アドレスの利用要望に対応するために、JPNICやIPv6普及・高度化推進協議会では専門の検討チームを組織し、要望の収集、技術検討、必要に応じたIPv6アドレス配布規約の変更提案を行うための活動を実施しています。
4. 終わりに
IPv6は、既存のインターネットの枠を飛び越え、さまざまな場所/場面での利用が始まっています。今後はパソコンのような従来からネットワークにつながっているもののみでなく、いろいろなものがいろいろな形でネットワークを構成し、相互に通信をし合うようになっていくでしょう。今後のインターネットの利用方法に合ったアドレス配布の仕組みを作り上げていく必要があります。
(JPNIC IPv6アドレスポリシー企画策定専門家チーム主査/NTT情報流通プラットフォーム研究所 藤崎 智宏)
参照URL
- ☆1 United States Department of Defense News Release
- http://www.dod.gov/releases/2003/nr20030613-0097.html
- ☆2 FC2460 "Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification ", S. Deering, R. Hinden., December 1998.
- http://www.ietf.org/rfc/rfc2460.txt
- ☆3 RFC3513 "Internet Protocol Version 6 (IPv6) Addressing Architecture.", R. Hinden, S. Deering., April 2003.
- http://www.ietf.org/rfc/rfc3513.txt
- ☆4 RFC 3587 "IPv6 Global Unicast Address Format.", R. Hinden, S. Deering, E. Nordmark., August 2003.
- http://www.ietf.org/rfc/rfc3587.txt
- ☆7 draft-ietf-ipv6-deprecate-site-local-01.txt "Deprecating Site Local Addresses", C. Huitema, B. Carpenter, October 13 2003,
- http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-ipv6-deprecate-site-local-01.txt
- ☆8 draft-ietf-ipv6-unique-local-addr-01.txt, "Unique Local IPv6 Unicast Address", R. Hinden, Brian Haberman, September 23 2003,
- http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-ipv6-unique-local-addr-01.txt
- ☆10 draft-huston-ipv6-documentation-prefix-01.txt, "IPv6 Documentation Address",G.Huston, A. Load, and P. Smith, August 27 2003,
- http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-huston-ipv6-documentation-prefix-01.txt
※1 正確には、現在各RIRがIANAより委譲されて配布中のIPv6アドレスプリフィクス2000::/3以下のアドレスに関するフォーマットです。
※2 この領域に関しては、
- 誰でも取得可能なこと
- 年会費等、定期的な支払いの必要がないこと
- 一割り当てごとに、10ユーロ程度の料金を必要とすること(これは割り当て要求が殺到し、不要の割り当てがないようにすることが目的である)といった割り当て基準が提案されています。