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ニュースレターNo.46/2010年11月発行

ITU IPv6グループの設立経緯と現況について

現在ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)には、「ITUを通じてIPv6アドレスを分配するスキーム」に関する議論を行う、ITU IPv6グループが設立されています。本稿ではこのグループに関して、これまでの動きを整理してお伝えします。

問題のあらまし

ITU IPv6グループの設立は、2009年9月のITU理事会に電気通信標準化局(TSB)局長から提出された「寄書29」※1で提案されましたが、ここに至る経緯はITU内部の会議体の決議文によってたどることができ、2005年に開かれた世界情報社会サミット(WSIS)のチュニスアジェンダまで遡ることができます。
なお、ITU内部での詳細な経緯については、JPNIC News & Viewsのバックナンバー※2をご参照ください。また、ITU内部の会議体や組織名称、全体の組織構造が分からないと理解しにくい面もあるかと思いますので、財団法人日本ITU協会提供のITU組織図※3もあわせてご参照ください。

CIRスキームとはどういうものか

前述のTSB局長による報告書※1において、CIR(Country-based Internet Registry)スキームという考え方が出てきていますが、要約すると以下のようになります。

  1. 現在の五つのRIRに加え、ITUがRIR同様にIANAからIPv6アドレスの割り振りを受ける。
  2. ITUレジストリから、国ごとに設置されるCIRにIPv6アドレスが再分配される。
  3. CIRから分配されるアドレスに関しては、各国の事情を配慮して制定された細やかなポリシーがCIRによって制定される。また、このことがインターネットのルーティングを破壊する危険性は無い。
  4. 現RIRによる独占状態には問題があり、競争環境が必要である。

このCIRスキームに対しては、IPv6グループ会合の直前に開催されたAPNIC29ミーティングにおいてAPNICコミュニティ全体から異議を唱えられ、「IPv6グループ会合に対する寄書」として声明文が出されています。※4

IPv6グループ会合

2010年3月15日~16日に、スイスのジュネーブでIPv6グループの第1回会合が開催され、ITUの会員国以外にも、セクターメンバーであるAPNIC、RIPE NCCなどのほか、ARINも技術専門家として参加しました。議事録案初版によると、発言した10ヶ国の会員のうちCIRスキームを支持したのは2ヶ国でした。支持理由として、インターネット用国際専用線の費用負担におけるアンバランス等、IPアドレス分配に直接関係の無いものを挙げる国もあり、正しい理解に基づいて支持を主張しているのか、論理的にも疑わしく感じられました。
一方、現行のRIRスキームへの支持を打ち出している国も数ヶ国あり、またRIR陣営も、全RIRに対して同一サイズのIPv6ブロックが既に分配済みであること等を理由に「現行スキームでニーズは満たしている」と考えており、CIR導入の必要性を明確化すべきとの指摘が相次ぎました。
第1回会合の結果、連絡部会や、ITU-T、ITU-Dの研究部会へのリエゾンが設置され、2010年9月1日~2日に第2回会合が開催されることになりましたが、JPNICが掴んでいる範囲では、第2回会合まで特に大きな動きはないようです。

考察

当初、このようなITUの動きはRIR関係者の中で大いなる懸念とともに議論され、JPNICも情報把握に努めてきましたが、今回のIPv6グループ会合の様子から、すぐに大きな動きにつながるものでなさそうだということが分かりました。
しかし、IPv6グループはITUの意志決定機構の枠外にあり、意志決定権を保持していません。セクターメンバーや技術専門家など、ITU会員国以外の幅広い人たちにより議論されるIPv6グループと違い、ITUとしての意志決定はITU理事会をはじめとする、ITU会員国のみが関われる会議等で行われるため、今後大きな動きが起こる可能性もないとは限りません。
2003年のWSISではICANN体制が大きな議論となりましたが、今後のITUの動きがIPアドレス管理体制やインターネットガバナンス全体に関する大きな動きを再び巻き起こす可能性もあり、JPNICでは今後とも状況を注視してまいります。

(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀)


※1 ITU理事会に報告されたTSB局長による報告書「寄書29」
http://www.itu.int/dms_pub/itu-t/oth/3B/02/T3B020000020002PDFE.pdf
※2 JPNIC News & Views vol.746 ITU IPv6グループの設立経緯と現況について
https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2010/vol746.html
※3 国際電気通信連合(ITU)組織図
http://www.ituaj.jp/03_pl/itu/sosikizu.pdf
※4 JPNIC News & Views vol.731 APNIC29ミーティング報告[第1弾]全体報告
https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2010/vol731.html

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