ニュースレターNo.55/2013年11月発行
第66回RIPEミーティング報告
2013年5月13日(月)〜17日(金)に開催された「RIPE 66」カンファレンスの開催地は、アイルランドのダブリンで した。
RIPEはヨーロッパ・中近東地域のネットワークオペレーターが情報交換を交流するためのコミュニティであり、カンファレンスの運営は、この地域でアドレス管理を行っているRIPE NCC(RIPE Network Coordination Centre)が行っています。
カンファレンス会場となったThe Burlington Hotelは、運河や公園に近い落ち着いたエリアに立地しており、正面玄関ではアイルランドの国旗と並んでRIPEの旗も掲げられているという演出もありました。
また会場では、アイルランドにゆかりのある有名人のTシャツが、人物ごとに異なる色のTシャツのシリーズとして配布されていたようです。
RIPE 66の特徴
今回は、過去最大の参加者数となった523名の実参加者がありました。西欧からの参加者はもちろんのこと、東欧、ロシア、中東からも広く参加がありました。特筆すべきは米国からの参加者の多さで、これは西欧からの参加者数に匹敵します。なお日本からの参加者は、主催者からの発表によれば11名でした。
また、DNSの計測についてメンバー間で情報交換を行うDNS OARC(The DNS Operations, Analysis, and Research Center)ミーティングも、同じ会場で前日の12日(日)から開催され、OARCではRIPEとの相乗効果があったのか、メンバー以外も参加できるSpring Workshopは満席でした。
今回のRIPEカンファレンスで、日本の運用者にも関わりがあると思われる議論としては、「Best Current Operational Practice文書の策定」と「Anti-Spoofingに関するパネルディスカッション(旧:DNS Open Resolverに関するパネルディスカッション)」が挙げられます。
また、DNSやルーティングに関係したOpen Sourceのソフトウェアについては、今までOpen Source BoFが開催されていましたが、それがWGに昇格となり、今後は、定常的にOpen SourceのWGセッションが開催されることになりました。
個々の発表ベースで興味深いものが多くありましたが、以降では、4点のトピックスに絞ってRIPE 66での議論の様子をご紹介します。
Best Current Operational Practice文書の策定
Best Current Operational Practice(BCOP)とは、現時点での最適な運用を明文化した文書です。これを策定し、世界的に一つにまとめたものを、ISOCのGlobal Repositoryに集約するというアイディアがISOCのJan Zorz氏から紹介されました。
目的としては、以下の3点が挙げられます。
- IETFに対するオペレーショナルコミュニティからのフィードバック
- 政府関係者が運用上不適切な規制を加える動きがあった場合の参照元
- 運用コミュニティとして幅広く推奨すべき運用の明文化
(例:BCP38、今回はOpen Resolver対応の文書化の話も一部で出ていた)
その方法として、各地域・国単位のNOG(Network Operations Group)で検討された文書を検討するグローバルなBCOP委員会を設け、そこで一つのBCOP文書にまとめるという案が紹介されていましたが、まだたたき台の段階であり、さまざまなNOG・その他運用者コミュニティからのフィードバックをもとに見直していくという姿勢のようです。
Zorz氏によるPlenaryでの発表後、同じ部屋で引き続きBoFが行われ、参加者からの意見を募っていました。議論ではそもそもベストの運用として一つにまとめられるのか、各NOGとの関係や連携など具体的な方法論についても賛否両論でしたが、課題として検討の必要性はあるとして継続議論となりました。
Zorz氏からは今後引き続き、RIPE以外も含めたコミュニティからのヒアリングを行い、今年2013年の夏を目処に具体的な提案を行う意向が示され、BoF開催後にメーリングリスト(ML)が作成されています。
日本にもJANOGという運用コミュニティがありますので、こういった世界的な運用文書策定の動きによる影響がないのかを、注視したほうが良いのではないかと感じました。
- Best Current Operational Practices- Efforts from the Internet Society
https://ripe66.ripe.net/presentations/137-Jan_Zorz_ISOC-BCOP-JZ-v.3-final.pdf
Anti-Spoofingに関するパネル
今回のPlenaryでは、“Seven Years of Anti-Spoofing”と題したパネルが行われ、RIPEコミュニティとしてのこれまでのAnti-Spoofingに関する取り組みの紹介と今後何をするべきかというテーマで6名のパネリストにより議論が行われました。
特に、国内でも議論となっているオープンリゾルバ(Open Resolver)に対する取り組みが大きく取り上げられ、今後、引き続き議論する必要性を感じる人で一度アムステルダムで話し合うことがRIPE NCCスタッフにより提案されていました。ヨーロッパ以外の地域からも、希望者がいれば電話会議で参加できる仕組みも提供できるということです。
また、パネリストのMerike Kaeo氏の発表では、オープンリゾルバに関する計測やプロジェクトが紹介されており、国内での対応にも利用できるものは参考にしても良さそうです。
- Measurement Factory
http://dns.measurement-factory.com/surveys/openresolvers.html - The Open Resolver project
http://openresolverproject.org/
アドレスポリシーに関する動向
アドレスポリシーに関する議論は、IPv4アドレスの移転についてのものでした。JPNICでは他レジストリとの移転を認めるポリシーを2013年6月3日より施行しているため、RIPE地域での動向も気になるところです。
RIPE地域では、「他のレジストリとの移転を認めるポリシー」の検討が、過去のカンファレンスから継続議論として行われてきましたが、今回も結論は出ませんでした。従って現時点では、JPNICとRIPE地域との移転はまだ実行できない状況です。
これに加え今回は、「移転時におけるアドレス効率利用の確認要件の撤廃」を求める提案も行われました。現在RIPE地域で施行しているこの要件を撤廃すると、その要件を条件としているARIN地域との移転を行うことができなくなります。しかし、提案者としてはそのような影響があっても良いので、RIPE地域として望ましい要件を施行するべきだという考えのようです。複数のARIN地域の参加者から懸念が示されましたが、時間の関係上、結論は出ず、MLでの継続議論となりました。
- 2013-02 Removal of Requirement for Certification of Reallocated IPv4 Addresses
https://ripe66.ripe.net/programme/meeting-plan/address-policy-wg/
その他IPv4アドレス移転に関するセッションとしては、移転のブローカーが主催するIPv4アドレス移転の透明性を考えるBoFが行われました。特に目新しい議論はありませんでしたが、移転の現状について参加者ブローカーと一緒に話し合えるセッションとしては面白い試みだったと感じました。
オペレーショナルな発表・議論
オペレーショナルなトピックスのうち参加者の反響が大きかったもの、または国内でも関わりがあると思われるトピックスを数点、簡単にご紹介します。
IPv6
IPv6 WGでは、IPv6のみのクライアントによる経験やアプリケーションレベルでIPv6対応する上での課題などが紹介され、特にCeroWrtというIPv6での運用上の課題に対応できるミドルウエアの紹介には、多くの参加者が興味を示していました。
ルーティング
Routing WGではAPNICのGeorge Michaelson氏から、RPKI(リソースPKI)のROA(Route Origination Authorization)の情報を、自動的にIRR(Internet Routing Registry)に登録する案が発表され、参加者からは、IRR情報に基づき経路情報を生成する上での影響について、懸念が示されていました。これは2013年2月にシンガポールで開催されたAPRICOT2013でもAPNICから発表されたものであり、Michaelson氏としてはRIPEでの意見を取り入れた上で、次回8月の西安でのAPNIC 36においても、何らかの発表を行う意向ということです。
RIPE Atlas
コミュニティの協力を得ながら、RIPE NCCが実施している計測プロジェクトであるRIPE Atlasプロジェクトとして、集積されたデータをどうコミュニティのために活用できると良いかを議論するBoFが行われていました。
RIPE NCCでは、誰もが手軽に自宅で運用できるProbeをRIPEメンバー以外にも無料で配布し、それらのProbeからの計測データを収集しています。日本でのProbe運営者も募集中であり、Probeを無料で郵送してくれるということですので、興味のある方は、以下より情報をご確認ください。
上記の他にも、遅延測定する上でのpingの利用、OpenNaaSによるCPE(Customer Premises Equipment)の仮想化、太陽の状態による通信への影響など興味深い発表が行われていましたが、詳しくはRIPE 66のプレゼンテーション一覧よりご確認ください。
RIPE 66振り返り“Global RIR Showcase” @JPOPM24
今回のRIPEカンファレンスでの議論や発表をご紹介するセッションを、2013年6月18日(火)に東京・アーバンネット神田ビルで開催された、第24回JPNICオープンポリシーミーティングで行いました。セッションの詳細については、P.17からの「第24回JPNICオープンポリシーミーティング報告」をご覧ください。
次回のRIPEカンファレンス
第67回RIPEミーティングは、2013年10月14日(月)〜18日(金)にギリシャ・アテネで開催されます。
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)