ニュースレターNo.59/2015年3月発行
ICANNロサンゼルス会議報告および第41回ICANN報告会開催報告
2014年10月12日(日)から16日(木)に米国ロサンゼルスで第51回ICANN会議が開催され、本会議の報告会を11月19日(水)にJPNICと一般財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催にて開催しました。報告会はこの時期の恒例となる、Internet Week 2014の同時開催イベントとしての開催となりました。本稿では、ロサンゼルス会議の概要を中心に、報告会の様子も併せてご紹介します。
ロサンゼルス会議の特徴
今回のロサンゼルス会議で、最も多く聞かれたキーワードは「説明責任(Accountability)」でした。本稿では、IANA機能の監督権限移管と、ICANN自身の説明責任に関する議論の動向をご紹介するとともに、引き続き議論されている、新gTLDやWHOISに関する議論の動向を取り上げます。
また、オープニングセッションでは、開催地の政府関係者として、米国商務長官のPenny Pritzker氏がIANA監督権限移管の提案に向けて、ICANNとコミュニティが一丸となって協力し、検討を進めていくことが重要というスピーチを行いました。米国政府の長官が、ICANN会議に参加し、スピーチを行うことは初めてのことです。米国政府の姿勢として新しい発表はありませんでしたが、商務長官自らが、ICANN会議に出向いてスピーチを行ったことで、IANA機能を取り巻くこの一連の動きを重視し、コミットしていることが見て取れました。
ドメイン名におけるIANA機能の監督権限移管提案に関する進捗
P.2からの特集1で詳しく紹介していますが、ICANNの各コミュニティからは、IANA機能の監督権限移管に関して、ドメイン名についての提案を提出することになっています。この議論を進めるに当たって、ICANNコミュニティでは、ICANN自身の説明責任機構を整備する必要があるとして、両者を関連付ける論調が根強い状況です。前回のロンドン会議では、ICANNの説明責任に関する検討の進め方にコミュニティから懸念が示され、大きな議論がありました※1。今回は、ICANN側が本件に関してコミュニティに大きく歩み寄る姿勢を見せ、コミュニティが懸念しているICANNの説明責任に関する課題について、ICANNコミュニティが主体となり検討できる枠組みを提示したため、多くの参加者がこれを受け入れました。これによって、IANA機能の監督権限移管に向けた議論も、前向きな姿勢で進めるスタートラインに立ったと言えそうです。
また、ICANN自身が2015年1月までにドメイン名の監督権限移管に関する提案を作る必要があることから、今回のロサンゼルス会議では、ドメイン名に関する移管提案を検討するワーキンググループ「ドメイン名に関連するIANA監督権限移管提案立案のためのクロスコミュニティワーキンググループ(Cross Community Working Group to Develop an IANA Stewardship Transition Proposal on Naming Related Functions)」を、各支持組織(SO)や諮問委員会(AC)の代表者により組成して、対面会議が実施されました。
ドメイン名に関する提案を2015年1月までに策定する上で、ロサンゼルス会議がICANNコミュニティとして対面で議論を行う最後のタイミングでしたので、どの程度進捗があるのか、個人的には着目していました。しかし、結論としては、全体として議論した以下のセッションのいずれにおいても、進め方の確認や意向表明が目立ち、具体的な提案内容の方向性が見えてくるような議論は確認できませんでした。
- Meeting of the CWG to Develop an IANA Stewardship Transition Proposal on Naming Related Functions
http://la51.icann.org/en/schedule/mon-iana-stewardship-naming - Community Discussion with the IANA Stewardship Coordination Group(ICG)
http://la51.icann.org/en/schedule/thu-icg-community
ドメイン名以外の二つの資源に関しては、IPアドレスについては各RIRのフォーラムで、プロトコルパラメータについてはIETFで、それぞれ内容の議論が進んでいる状況ですので、ICANNにおけるドメイン名に関する提案の検討は、大きく出遅れている状況です。しかし、CWGのメンバーからは、上記のセッションで、2015年1月の期限に間に合わせることに意欲的な意見が表明されていましたので、今後の検討の進展に期待したいと思います。
参考情報:
- IANA Department - Who, What, Why?
http://la51.icann.org/en/schedule/mon-iana - SSAC Report
[SAC068]: SSAC Report on the IANA Functions Contract(10 October 2014)
[SAC067]: Overview and History of the IANA Functions(15 August 2014)
ICANNの説明責任に関する議論
また、ICANNの説明責任に関する課題のうち、IANA機能の監督権限移管による影響を受けるものについては、その対応案を移管に関する提案と同期して、NTIAに提出することが求められています。ICANNの説明責任機構に関する議論については、IANA機能の監督権限移管に関する検討との関係性が、ICANNコミュニティも納得のいく形で整理されたことが、今回の大きな成果です。
まず、本件に関する検討を行う「ICANNの説明責任強化に関するクロスコミュニティワーキンググループ(Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability)」を設立することにし、ロサンゼルス会議の会期中にドラフティングチームを組成して、チャーターの起草作業が進められました。筆者はアドレス支持組織(ASO)の代表として、このチームに参加しました。現在、意見募集中のチャーターでは、IANA機能の監督権限との関連性をもとに、議題を二つの「Work Stream」に分けることになりました。
- Work Stream 1 : 監督権限移管までに解決すべき課題
- Work Stream 2 : 監督権限移管後も、長期的に解決すべき課題
Work Streamを二つに分けたことで、IANA提案の提出時期が長期的課題の解決に影響されなくなり、「長期的なICANNの説明責任に関する課題への対応が明らかになるまで、IANA提案が提出できない」という状態を避けることができそうです。
新gTLDに関して
2012年から実施された新gTLD第1ラウンドについては、オークションによる収入の取り扱いが今後の理事会での決議事項として残っているものの、全体としては着々とプロセスが進行している印象です。さらに、第1ラウンドの結果を検証し、次回第2ラウンドに向けた改善をまとめようという動きも出てきました。
一方、第1ラウンドによる新gTLDの実際の導入が進んでいることに伴い、後述する名前衝突の問題や、TLD Universal Acceptanceの問題も出てきています。しかしながら、これらは会議全体の中で、大きな議論はされていませんでした。
これらの問題を含め、今回確認された主な進捗を、以下にまとめてご紹介します。
申請処理状況:
- ロサンゼルス会議時点で、新gTLD418件の委任を完了と発表
- 競合する文字列(Contention Set)については、233件のうち、約半数を超える120件が解決済み
- オークションに伴う収入、コストを公開
ロサンゼルス会議時点でのオークションによる収入は、13,904,785USドルと発表されています。最終的な合計額が確定してから、理事会で対応を検討することになります。
- 新gTLDに関する進捗報告セッション
http://la51.icann.org/en/schedule/mon-new-gtld
名前衝突
現在適用されている、衝突の恐れがあるドメイン名のリストを提示して対応を促したり、報告窓口を設置したりするなどの対策は、今回のラウンドの新gTLD申請のみに対して、2年間のみ有効なものとして適用されます。
これを踏まえ、将来的に次のラウンドの開始が決定した場合に備える必要性や、既存のgTLDも視野に入れた長期的な対策に向けた質問が、今回の会議でコミュニティに投げかけられました。今後大きな進捗がありましたら、JPNICの名前衝突問題に関する情報提供ページで、随時情報更新を行ってまいります。名前衝突問題自体に関する説明も、このページをご参照ください。
- 名前衝突セッション
http://la51.icann.org/en/schedule/wed-name-collision - 名前衝突問題についてまとめたJPNICのページ
https://www.nic.ad.jp/ja/dom/new-gtld/name-collision/
Universal Acceptance
新たに追加されたTLDが、正しい電子メールアドレスとして識別されない、正しいWebサイトとして認識されないといったこの問題は、これまでは国際化ドメイン名(IDN)を中心とした問題として捉えられてきましたが、新gTLDにおいても同様の問題が、実際に発生していることが報告されています。
Facebookのようなメジャーなアプリケーション、公共機関の提供しているWebサイトなどでも問題が確認されており、「.city」など100を超える新gTLDの申請を行った、大手のレジストリであるDonuts社などは、ICANNだけではなくコミュニティ全体として、周知と対策の促進を検討するよう呼びかけています。
Universal Acceptanceセッション:
http://la51.icann.org/en/schedule/wed-universal-acceptance
第1ラウンドの検証
新gTLDプログラム第1ラウンドの検証、次の第2ラウンドに向けての検討事項のたたき台が、ICANNから発表されています。GACからは、「今回のラウンドでGACが提出したセーフガードに関する勧告への、ICANNの対応に満足していない。これが適切に対応されるまでは、次のラウンドを開始すべきではない」といった意見もあるようですが、ICANNからも、「現在のラウンドにおける課題が整理されるまで、次のラウンドを進める意向がない」ことが説明されたことから、長期的な検討事項として整理に着手したと見ておくのがよさそうです。
https://centr.org/system/files/share/centr-report-icann51-20141017.pdf
その他
新gTLDの導入に伴う政府間国際組織(IGO)・非政府間国際組織(INGO)に関わる名称の保護、国コードと重複する2文字TLDの申請、IDNラベルの生成に向けた検討パネルなどについても、継続して検討が行われています。
gTLD WHOISに関する検討
最後にドメイン名の登録者・利用者として押さえておきたい議論としては、gTLD WHOISの見直しを視野に入れた検討です。gTLD WHOISのあり方を根本的に検証した最終報告書が、理事会に提出されたことを機に、理事長のSteve Crocker氏からも、WHOISについては重要な検討課題として長期的に、慎重に抜本的見直しを行っていくという姿勢が、オープニングセッションで示されました。
現時点では、長期的な計画の議論が中心ですが、WHOIS登録者、利用者の立場から、今後ドメイン名のWHOISにおいてどのような変更があり得るのか知っておく上で、ご確認いただくとよさそうです。詳細を後述します。
gTLD WHOISの抜本的な見直し
情報の参照権限・公開など、gTLDのWHOISのあり方を抜本的に検証した、専門家グループ(EWG)の報告書が理事会に提出されました。これからICANN理事会が、内容の検証とポリシー策定プロセス(PDP)の必要性について検討に入ります。登録情報に関するプライバシーが大きな課題となるとCrocker氏は述べていました。
なお、ICANN会議に参加する、技術的な専門家による個別の会議では、全gTLDに関わるWHOIS情報を1ヶ所に集約する現在の案を、疑問視するコメントも確認されました。
その他の動向:
プライバシー・プロキシサービスに対する対応として、ドメイン名の登録者の代理として事業者の連絡先を登録している場合、代理の事業者が登録者に連絡を取れるようにすることを、レジストラ契約上求める方向で議論が進んでいます。
また、英語以外の言語で登録された、連絡先情報の変換と翻訳の必要性が、専門のWGで検討されています。しかしながら、登録情報の変換と翻訳は、必須としない意見が優勢となっていました。
- WHOIS Updateセッション:
http://la51.icann.org/en/schedule/mon-whois
(JPNICインターネット推進部/IP事業部 奥谷泉)
- ※1 JPNICニュースレター No.58 「ICANNロンドン会議報告および第40回ICANN報告会開催報告」
- https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No58/0550.html