ニュースレターNo.61/2015年11月発行
ICANNブエノスアイレス会議報告
2015年6月21日(日)から25日(木)にアルゼンチンのブエノスアイレスで第53回ICANN会議が開催され、本会議の報告会を7月28日(火)にJPNICと一般財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催にて開催しました。本稿では、ブエノスアイレス会議の概要を中心に、報告会の様子も併せてご紹介します。
今回の会議の特徴
今回のブエノスアイレス会議での特筆すべき成果は、IANA監督権限移管に関するドメイン名コミュニティからの提案が、分野別ドメイン名支持組織(GNSO)、国コードドメイン名支持組織(ccNSO)の両評議会に承認されたことです。これによって、IANAが管理する、ドメイン名、番号資源、プロトコルパラメータの、3資源すべてのコミュニティからの提案が出揃い、米国商務省情報通信局(NTIA)へ提出する統合提案の内容が、具体的に見えてきました。
これに加え、IANA監督権限移管に併せてNTIAに提出が求められている、ICANNの説明責任強化に関する提案策定を取り巻く議論も着目されていました。こちらは、ブエノスアイレス会議では対策の実装案においてやや迷走していましたが、その後2015年7月にフランスのパリで開催された、各支持組織(SO)、諮問委員会(AC)からの代表者により構成される、CCWG(Cross Community Working Group)個別会議の議論を経て、提案ドラフトが作成されました。
その後、IANA監督権限移管に関する統合提案は2015年7月31日(金)から、ICANNの説明責任強化に関する提案は8月3日(月)から、40日間の意見募集が実施されました。IANA機能の監督権限移管とICANNの説明責任の関係は、58号のロンドン会議報告で紹介していますので、詳しくはそちらをご覧ください。
その他新gTLDについては、いくつか残されている継続課題が議論される一方で、早速次回ラウンドの申請受付に向けた検討も、始まりつつある状況です。
今回の会議で特徴的だったこれらのトピックについて、IANA機能の監督権限の移管に関しては統合提案の提出に向けた今後の見通しなどを、ICANNの説明責任強化に関しては、重要決定にコミュニティ代表を関与させるという検討などについて、以下に詳しくご紹介します。また、新gTLDに関しては、第2ラウンドに向けた動きを取り上げます。
IANA機能の監督権限の移管
今回のICANN会議では、提案提出後の実施に向けた流れに目が向けられて、オープニングセレモニーでは以下のような見通しが示されました。
第1段階 | コミュニティによる提案の策定・NTIAへの提出 | 2015年10月頃 |
---|---|---|
第2段階 | NTIAによる提案内容の審査・米国議会での承認 | 2016年1月頃 〜2016年3月頃 |
第3段階 | 提案の実装・移管完了 | 2016年7月頃 |
現在は第1段階にあります。IANA機能の管理する三つの資源のうち、提案が未提出であったドメイン名コミュニティからの提案に関しては、IANA機能をICANNの完全子会社として分社化する「Post Transition IANA(PTI)モデル」に基づく提案ドラフトが、今回のICANN会議中にIANA stewardship transition Coordination Group(ICG)に提出されました。
これによって、NTIAへの提案提出を担っているICGが、ドメイン名、番号資源、プロトコルパラメータの3資源の統合に向けて、作業を進められる段階となりました。この3提案は、IANAの商標やiana.orgドメイン名など知的財産権の扱いで若干の食い違いが残るものの、本流の部分で噛み合わない点はないという状況です。
また、NTIAから移管の実装スケジュール提出が求められるなど実装を意識した動きもあり、実際、番号資源コミュニティは、提案の実装準備に着手しています。
なお、今後の見通しについては、米国の政治状況とも無関係ではなく、大統領選を前にして審議が滞り始める時期までに議会での承認を完了し、選挙後政権交代があった場合は方針が不透明になることに備えて、2016年の末には実装を完了していることが望ましいというのが関係者の共通認識です。米国政府や議会でも、既にIANA監督権限移管に関する検討が進んでおり、ICANN CEOのFadi Chahadé氏やNTIA長官のLarry Strickling氏も、議会公聴会に証人として召喚されています。今後、政治的な判断が行われる段階に近づくにつれ、策定された提案を米国議会関係者に受け入れてもらえるよう、政治的な状況を踏まえたメッセージングも重要となってくると考えられます。
ICANN説明責任の強化
NTIAは、IANA機能の監督権限が移管された後も、ICANNが組織として信頼に足り得る運営が可能であることを示す必要があるとして、IANA監督権限移管と同時に、ICANNの説明責任機構強化に関する提案の提出を求めています。
この提案に関する議論は、各支持組織(SO)、諮問委員会(AC)からの代表者で構成されるCCWGで提案の策定が進められています。筆者はアドレス支持組織(ASO)代表の一員として、この活動に関わっています。
説明責任機構強化に関しては、理事会がICANNにおける重要な決定をすべて担う構造にある現状から、特に重要な決定に関しては、コミュニティ代表に理事会を優越する権限を与えることを前提に検討が進みました。ここで、特に重要な決定とされる事項は、次のものです。
- 重要な定款条項(Fundamental Bylaw)の変更承認
- その他の定款変更に関する理事会決定の棄却
- 予算・戦略・運営計画に関する理事会決定の棄却
- 理事の退任
- 理事会の解任
ここでの争点は、コミュニティ代表の法的位置づけです。ブエノスアイレス会議では、コミュニティ代表体の構成に関して二つの案が議論に上っており、カリフォルニア州法上の位置づけから、コミュニティ代表体がICANNを訴訟できる権限をどの程度持てるかという観点から、活発な議論が行われました。この議論はICANN会議の会期中には収束を見なかったものの、パリのCCWG個別会議では、既存のSO・ACが共同設立する法人格を持つ組織を唯一の会員と定義することで、理事会に対して訴訟を可能とする方法が支持を得ました。
新gTLD
今回の新gTLDプログラム第1ラウンドのオークション収入は、13件で5,880万米国ドルに上ります。この公正な管理をコミュニティワーキンググループで検討するために、そのチャーターの起草グループが構成されており、起草に向けた現状把握などのセッションが持たれました※1。
また、TLD Universal Acceptance※2に関しては、前回会議でコミュニティによるステアリンググループ(UASG)が組成されていますが、UASGの作業進捗や、事業者における取り組みを共有するセッションが持たれました。
一方、新gTLDプログラムの第2ラウンドに向けて、第1ラウンドにおける課題を洗い出すべく、事務局に課題報告書作成を求めることが、GNSOで承認されました。課題報告書は、ポリシー策定プロセス開始検討のために供されるもので、第2ラウンドへの準備が始まったということができます。
次回のICANN会議
第54回ICANN会議は、アイルランド・ダブリンで2015年10月18日(日)〜22日(木)に開催されます。今後の工程が円滑に進めば、IANA機能の監督権限移管に向けてNTIAへ提出する提案が確定する、大きなマイルストーンにつながる会議になると考えられます。
(JPNICインターネット推進部/IP事業部 奥谷泉)
- ※1 Pre-CWG Workshop on new gTLD Auction Proceeds
- https://community.icann.org/display/gnsocouncilmeetings/Pre-CWG+Workshop+on+new+gTLD+Auction+Proceeds
- ※2 TLD Universal Acceptance
- 2013年から委任が開始された新gTLDプログラムによりドメイン名が大量に増えましたが、それらの多様なドメイン名がドメイン名として正しく扱われ、あまねく問題なく利用できる状況を作り出すために、利用者やソフトウェアベンダ、サービス事業者に働きかけを行う取り組みです。