ニュースレターNo.61/2015年11月発行
WSIS(世界情報社会サミット) 成果実施状況レビュー(WSIS+10) 会合に参加して
2015年6月下旬には、ICANNブエノスアイレス会議(6月21日から25日)、ブラジルのサンパウロで開催されたNETmundial Initiative(NMI)調整評議会会合(6月30日)に参加するため、南米に出張しました。当初は、サンパウロから直接帰国する予定だったのですが、国際連合本部で開催された、WSIS(世界情報社会サミット)における成果実施状況レビュー関係の会合に急遽参加することになり、帰路の途中で米国・ニューヨークに立ち寄り、参加してきました。本稿では、その概要をご報告します。
「WSISの成果」と「レビュー」とは何か
上に「WSISにおける成果実施状況レビュー」と書きましたが、ここで「WSISの成果」と呼ばれているものは、2003年のWSISジュネーブ会合の成果文書である「ジュネーブ基本宣言」と「ジュネーブ行動計画」、2005年のWSISチュニス会合の成果文書である「チュニスコミットメント」「チュニスアジェンダ」を示しています。「世界情報社会サミット」という正式名称が示す通り、ICT技術によって情報化されていく社会をより良くするためとして、主に発展途上国におけるインフラ整備、能力開発などの項目が成果文書には並びます。この側面を端的に示す言葉として、“a people-centred, inclusive and development-oriented Information Society”(人間本位の包括的かつ開発志向の情報社会)というものがあり、ジュネーブ基本宣言やチュニスアジェンダに出現して以降、いろいろな会合や文書で引用されています。この他に、チュニスアジェンダでは、インターネットガバナンスフォーラム(IGF)の創立が示されたのをはじめとして、インターネットガバナンスに大きく紙幅が割かれています。
WSIS成果実施状況レビューは、2005年に開催されたWSISチュニス会合から10年という節目に当たる今年に、国際連合総会で実施するもので、「WSIS+10」とも呼ばれます。国際連合では、今年12月の通常総会の一部をこのWSIS+10のハイレベル会合に充てており、6月に政府間交渉プロセスを開始しました。6月10日〜11日のストックテイキング(現状確認)会合に続き、7月1日に第1回準備会合を開催しました。その翌日7月2日に開催された「非公式双方向ステークホルダーコンサルテーション」への参加が、私の主な目的でした。国際連合総会でWSIS+10を行うのは、あくまで国際連合加盟国の政府関係者なのですが、WSISの成果の実施には、政府以外にさまざまなステークホルダーが関与しており、そのインプットが重要であるため、準備会合に併催する形で事前にコンサルテーションが実施されたというわけです。
会合の様子
7月1日の第1回準備会合は、国際連合加盟国の政府関係者のみに発言権がありますが、翌日のコンサルテーションでは、参加する加盟国政府関係者以外のステークホルダーにも発言が許されました。
まず7月1日の準備会合では、WSIS成果実施状況に関して、加盟国政府の代表がそれぞれのポジションを示しました。日本国政府からは、総務省情報通信国際戦略局 多国間経済室長の菱田光洋さんが、マルチステークホルダーアプローチの重要性や、2015年で活動年限が終了するIGFの年限延長の必要性を示されました。各国の発言には一定の傾向が認められ、先進国においては日本と同じような姿勢が目立つ一方、発展途上国からは、インフラ整備や能力開発の重要性、チュニスアジェンダに盛り込まれた拡大協力(Enhanced Cooperation)の実施が不十分、と言った指摘が多く見受けられました。
7月2日の非公式双方向ステークホルダーコンサルテーションでは、
(1) WSIS成果の実施の進捗状況
(2) ICTの格差、継続注力領域、デジタルディバイド対処の課題
(3) 今後に向けて:開発のためのICT利活用
という三つのテーマ別のパネルディスカッションという仕立てで、それぞれのテーマに対して、口火を切るステークホルダーパネリストに加え、加盟国返答者、ステークホルダー返答者それぞれ3〜4名に発言時間が割り当てられ、必要に応じて他の参加者からの発言が許されました。私は、(1)のパネルのステークホルダー返答者として発言時間を得ることができましたので、このパネルの様子をお伝えします。
このパネルではパネリストとして、Internet Society(ISOC)、マイクロソフト社、ICANNの担当者が登壇しました。ISOCはICTを持続可能な開発と人間の能力向上(sustainable development and human empowerment)のための手段であると位置づけた上で、インターネットがこの10年間あらゆるステークホルダーの関与によって発展してきたことを述べました。マイクロソフト社は、同社が発展途上国で取り組んできた能力開発のプロジェクトを中心に紹介しました。ICANNは、国際化ドメイン名(IDN)やDNSSECなどの推進に関して、ICANNコミュニティがマルチステークホルダーで取り組んできたことを紹介しました。
加盟国としての返答者には、カザフスタン、チュニジア、日本、米国が並び、ステークホルダーとしての返答者には、私以外に非政府組織(NGO)のICT4Peace財団、市民社会団体Accessの代表者が並びました。私からは、日本におけるIPv6アクセスの普及に関して、総務省のIPv6関連の研究会に端を発し、NTT東西のフレッツサービスによるIPv6アクセスの実現に至る、政府や事業者の皆さんが行った取り組みを、WSISが打ち出した、さまざまなステークホルダーによる協働の好例として紹介しました。
このコンサルテーションでは、事前に指名された発言者以外にも発言が許されましたが、活発に議論が行われるというよりも、発言が整然と並ぶといった印象でした。すべてのパネルが終了した後、議長から、この会合での発言はWSIS+10の成果文書に対するインプットになること、併せて7月末までインプットのための寄書を募集する旨が示され、会合は閉会となりました。
WSIS+10に対する技術コミュニティの関与
コンサルテーションに関しては詳細が直前まで分からず、ステークホルダーの発表や参加に関する調整は、直前の時期に開催されたICANN会議が始まってからとなりました。幸い、APNICやISOC、ICANNなど技術コミュニティの担当者の協力で、発表時間を得ることができました。技術コミュニティは、国際連合におけるインターネットガバナンス関連の議題を扱う会合に際して、一貫して協力体制を取っており、事前の動向把握や情報共有、発言内容の擦り合わせなどを行っています。市民社会やビジネスセクターの参加者とも、非政府の立場を共有していますので、例えばIGF(Internet Governance Forum)の活動年限延長や、非政府ステークホルダーの検討プロセスへの参加を求めることなどの観点から、しばしば協力体制を取ることがあります。会合で効果的に自分たちの立場を訴求し、成果文書に色濃く反映させるのが目的となります。私の発言も、この目的達成に貢献していることを望むばかりです。
今回の会合参加は、国際連合の会議体の取り回しや文化に触れたこと、特に、その中で発言の機会を得られたこと、最前線の技術コミュニティの同僚たちの仕事ぶりや息遣いを見ることができたことなど、いろいろな意味で意義深いものとなりました。
文末のリンクから、WSIS+10プロセス全体、また今回の会合の発言原稿やWebcast録画を含むさまざまな資料がご覧になれます。
参考
- WSIS+10 Webページ - WSISおよびWSIS+10に関するあらゆる資料が閲覧可能
- http://unpan3.un.org/wsis10/
- WSISジュネーブ会合成果文書
- http://www.itu.int/wsis/documents/doc_multi.asp?lang=en&id=1160
http://www.itu.int/wsis/documents/doc_multi.asp?lang=en&id=1161 - JPNIC News & Views vol.149
世界情報社会サミット(WSIS)におけるインターネットガバナンス問題に関する報告会レポート - https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2004/vol149.html
- WSISチュニス会合成果文書
- http://www.itu.int/wsis/documents/doc_multi.asp?lang=en&id=2266
http://www.itu.int/wsis/documents/doc_multi.asp?lang=en&id=2267 - インターネット用語1分解説 チュニスアジェンダとは
- https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/tunis-agenda.html
- JPNIC News & Views vol.316
世界情報社会サミット(WSIS)報告 - https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2005/vol316.html
- 2015年7月1日 第1回準備会合ページ
1st Preparatory Meeting - for the General Assembly's overall review of the implementation of the outcomes of the World Summit on the Information Society(WSIS) - http://unpan3.un.org/wsis10/1julypreparatorymeeting
- 2015年7月2日 非公式双方向ステークホルダーコンサルテーション ページ
Informal Interactive Stakeholder Consultation - Preparatory Process for the General Assembly’s overall review of the implementation of the outcomes of the World Summit on the Information Society(WSIS) - http://unpan3.un.org/wsis10/2julystakeholderconsultation
- WSIS+10に対する寄書の応募要領
- http://unpan3.un.org/wsis10/submissionguidelines
(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀)