ニュースレターNo.63/2016年7月発行
第55回ICANNマラケシュ会議報告
2016年3月5日(土)から10日(木)にかけてモロッコのマラケシュで第55回ICANN会議が開催され、本会議の報告会を3月30日(水)にJPNICと一般財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催にて開催しました。また、今回の報告会直後には、ICANN報告会の参加者も引き続き参加可能な報道関係者向けトークイベント「インターネットは誰が管理するのか? 〜米国管理からの脱却に向け前進〜」も開催しており、IANA監督権限の移管については報道関係者向けトークイベントにて主に報告しました。
本稿では、マラケシュ会議の概要を中心に、ICANN報告会と報道関係者向けトークイベントの様子も併せてご紹介します。
マラケシュ会議の特徴
2016年3月5日(土)から3月10日(木)にかけて、モロッコにて第55回ICANNマラケシュ会議が開催されました。この会議の何よりの成果は、IANA機能監督権限移管、そしてICANN説明責任強化に向けた二つの提案が、ついにICANN理事会に承認され、NTIA (米国商務省電気通信情報局)へ提出されたことです。
2014年3月のNTIAによるIANA監督権限を移管する意向の発表以来、IANA機能に関わるコミュニティが、約2年をかけて現体制にかわる体制等の提案策定を進めてきましたが、厳密にはIANA機能監督権限をどう移管するかに関する提案は、2015年10月には提出準備が整っていました。しかし、NTIAより移管を進める上での必要条件として、ICANN自身の説明責任強化提案も併せて提出することが求められていたため、後者の提案の完成を待っていたという状況でした。詳細は特集2をご覧ください。
説明責任強化提案の決議が行われた2016年3月10日の公開理事会と、その後に開催された懇親会は、祝福ムードに包まれていました。私も、番号資源コミュニティとして提案策定をリードしたCRISP (Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal)チームのチェアとして、パブリックフォーラムで発言をし、また懇親会で各チームのリーダーに続きCRISPチームメンバーの紹介を行い、コミュニティによる提案策定の完了という大きなマイルストーンへの祝辞を述べたりしました。写真を含めた簡単な報告は、JPNICブログにも掲載しています。また理事会後、報道陣向けの会合も開催され、Reuter、The Economist、The Guardianといった、複数の一般メディアでもこの件は記事となり、大きく扱われました。国内でも、後述のように本件に関する報道陣向けのイベントをJPNICで主催し、動向について広く報告しました。ICANNアジア太平洋拠点の総責任者Jia-Rong Low氏もシンガポールから来日して、コミュニティにおける提案策定プロセスの説明をしてくれました。
本稿では、この「IANA機能監督権限移管とICANN説明責任強化を取り巻く動向以外のICANNマラケシュ会議の報告として、「新gTLD関連の動向」「その他ドメイン名に関する動向」「WHOISを置き換えるgTLDに関する登録情報検索サービスに向けた検討」についてご紹介します。
IANA移管と説明責任強化以外の話題
マラケシュ会議の大きな成果はIANA移管と説明責任強化の両提案が承認されたことですが、新gTLDに関連した議論やWHOISに関する議論も引き続き行われています。以降は、これらのIANA移管と説明責任強化以外の話題から、特筆すべきものを簡単にご報告します。
新gTLD関連
この度の新gTLDラウンドにおける継続対応事項は、Universal Acceptanceとオークションによる資金の取り扱いの2点です。
(1) Universal Acceptance
新gTLDの文字列が、一部のメールソフト、Webの申請フォーム、その他のアプリケーションでドメイン名として識別されず、利用できない問題への対応です。従来は主にIDNで発生していた問題でしたが、1,000を超える多様な文字列が新gTLDとして認められたことにより、ASCIIのTLDにおいても問題が発生しています。OS、メールソフト、ブラウザを開発・提供している主な企業と一緒に、この問題に特化した検討グループを設立し、検討を進めています。
https://www.icann.org/resources/pages/universal-acceptance-2012-02-25-en
(2) オークションによる資金の取り扱い検討
同じ文字列が複数の組織から重複して申請され、相互の話し合いで解決しない場合、オークションを実施し、その収入はICANNに入ります。現在オークションによる収入の見込み総額が約115億円(USD 105 million)となり、コミュニティで、透明性、信頼性を確保する資金管理のあり方を検討しています。
また、この度の新gTLDラウンドの評価に向けた、複数の活動も開始しています。
- UDRPを含めた全gTLDにおける権利保護メカニズムの検証
- 次回ラウンドに向けた、ポリシー改善を検討するPDPの開始
- 新gTLDの評価:多様な側面での評価を今後実施(2017年第2四半期頃の終了目標)
- 競争・消費者の信頼・消費者の選択肢(CCTC)の評価
- 本件に特化したチーム(CCT-RT)を設立、三つに分類して今後評価
その他ドメイン名関連
- ccTLDレジストリが登録管理業務を終了する場合の、メカニズムの明確化に向けた検討が開始された
- 地域や都市名を現すTLDのレジストリ同士で情報交換、議論を行う、Geo TLD Interest Groupが設立された
- セカンドレベル以下を含めた、2文字のドメイン名に対するGAC勧告への対応について、明確化を求める声が上がっている
- 国/地域名の利用に関する検討グループにて、3文字の国名地域名に関わるドメイン名(日本を表す「JPN」など)の扱いに関する議論が開始された
- レジストラと法執行機関による協力の検討として、法執行機関(FBI、Interpol、Europol)が必要な状況・情報を説明し、共同でレジストラが提供する情報に関するツールキットの検討が合意された
WHOISに置き換わるgTLD登録情報検索サービス
- WG (130のメンバー、100のオブザーバ)が設立され、初回会議が2016年1月に実施された
- 第1フェーズは、次の項目に重点をおく
- 要件(利用者、目的、アクセス、正確性とプライバシー)の評価
- 新たなシステムの必要性の判断
- 新たなシステムが必要な場合に、必要とされるWHOISの改定検討
- 複数の段階にわたる長期的な検討を必要とする見込みだが、議論への参加を希望する場合、今が重要なタイミングである
日本に直接関わりのある活動
- Community Translation Sessionで、日本国内でのICANN文書の和訳、主要な議論の情報共有などJPNIC、JPRSの取り組みを、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の堀田博文氏が紹介した
- ルートゾーンにおけるIDNのラベル生成ルール(さまざまな言語・用字系で使える文字およびその異体字を統一的に取り扱うルール)に関して、複数の言語で検討が活発に進んでおり、日本語に関しても日本語のルールの検討に当たる日本語生成パネル(JGP)が、漢字を共有する中国語、韓国語の生成パネルとの調整を進めている
現CEOの退任および次期CEOの会議参加
- 現CEO Fadi Chehadé氏の退任が予定されていたことから、次期CEO Göran Marby氏も今会議から参加した
- Marby氏のICANNでの就業開始は2016年4月1日、CEOとしての正式就任は5月予定
マラケシュ会議のWebサイトは、次のURLでアクセスできます。どのようなセッションが開催されていたのか、また、各セッションの詳しい議論も基本的に公開されていますので、より詳しい情報に興味のある方はこちらをご覧ください。
- ICANN55 | Marrakech
- https://meetings.icann.org/en/marrakech55
次回ICANN会議
第56回ICANN会議は、フィンランド・ヘルシンキで2016年6月27日(月)〜30日(木)に開催されます。ヘルシンキ会議はフォーマットが変更され、通常よりも短い期間での開催となります。
- ICANN56 | Helsinki
- https://meetings.icann.org/en/helsinki56
(JPNIC インターネット推進部 奥谷泉)