ニュースレターNo.73/2019年11月発行
インターネットことはじめ
Webブラウザの興亡
Webブラウザの今
2019年現在、Webブラウザ(以下ブラウザ)でシェアトップはGoogle Chrome(以下Chrome)と目されています。 JPNICのWebサイトへのアクセスログを見ても、 半数近くがChromeによるアクセスです。 しかし、Chromeが正式公開されたのは2008年12月※1で、 10年以上前とは言えインターネットが普及し始めてからずいぶん経ってからのことです。 ではその前はどんなブラウザが使われていたのでしょうか?
https://chromereleases.googleblog.com/2008/12/stable-release-google-chrome-is-out-of.html
初期のブラウザ
世界初のWebブラウザは、 68号※2でも紹介した「WorldWideWeb」で、1990年に開発されました。 2019年8月現在、 https://worldwideweb.cern.ch/を経由してその動作を垣間見ることができます。 テキストベースで、スタイル指定機能もなし。 非常にシンプルです。
その後1992年にViolaWWWが登場しました。 Mosaicに先駆けてテキストとグラフィックの混在表示が可能になっています。 機能的には表組み、フレーム、スタイル指定、独自の埋め込みスクリプトなど、 現代に通じるものを持っていました。
しかしWorldWideWebにしろViolaWWWにしろ、 使うには高価なワークステーションが必要で、あまり普及はしませんでした。
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No68/0320.html
普及の原動力
最初に広く普及し、Webそのものの普及にも貢献したのは、 1993年に登場したMosaic※3です。 WindowsやMacintoshなどの一般に普及したコンピュータで動作し、 テキストとグラフィックを同一ウィンドウで表示することで高い表現力を持っていました。
翌1994年にはNetscape Navigatorが登場します。 1997年までにバージョン4を数え、cookieやフレーム、JavaScript、 CSSといった機能を次々と実現し、普及していきます。 ただ、当時はブラウザ間の互換性が低く、 新しい機能を駆使したWebサイトには「このサイトはNetscape 専用です」といった但し書きもよくありました。
http://www.ncsa.illinois.edu/enabling/mosaic
最初のブラウザ戦争
Navigatorの成功に触発されたMicrosoftが、 1995年に開発したブラウザがInternet Explorer(以下IE)です。 Windowsの拡張パック「Microsoft Plus!」をインストールすることで、 利用可能になりました。 バージョン3でCSSやJavaScript、 ActiveXコントロール(プラグインの1種)といった機能を備えたものの、 先行するNavigatorと比べるとまだまだというレベルでした。
Windows 98ではIE 4が標準搭載となり、機能的にはともかく、 最初から使えるWebブラウザとして徐々にシェアを獲得し始めます。 代を重ねるごとにNavigatorとの機能競争を押し進め、 この当時のシェア獲得競争は「ブラウザ戦争」と呼ばれました。
IEはバージョンを重ねるごとにNavigatorのシェアを奪っていき、 IEバージョン6が出た2001年ごろには、 事実上の標準の地位を占めるようになります。 一方Navigatorは1998年に無償化に踏みきったものの、 シェアを回復することはありませんでした。
ブラウザ戦争再び
シェアトップを占めたIEは、その後技術的な停滞を迎えます。 やがて2000年代初頭にはWeb規格の標準化も進み、 対応をうたった新世代のブラウザ群が登場します。 Opera、Firefox、Safariです。 Operaは軽量高速、Firefoxはオープンソース化されたNavigatorを祖に持ち、 SafariはやはりオープンソースのWebkitを基礎としたMacOS標準のブラウザです。
この頃にはWeb上で動作するアプリケーションが増え、 より使いやすくするため、 各種の処理がサーバ側での実行からブラウザ側での実行へと移行していきます。 この時多用されたのがJavaScriptで、各社とも高速化にしのぎを削ります。 新世代のブラウザは画面表示や機能に関しては差異が少なく、 最新のWeb技術を使うユーザーを中心に、徐々にシェアを増やしていきます。 IEは古いIEとの互換性を重視したためか、最新技術への対応や高速化が遅れ気味でした。
そのような状況下において、2008年にChromeがリリースされます。 既に検索エンジン大手として有名だったGoogle社の製品であること、 無料であること、 高速に動作することなどからジリジリとシェアを獲得して現状に至ります。 かつてのIE独占状態に比べると健全な状態と言えますが、 このままChromeのシェアが高まって独占状態になる可能性も否定できません。
一方で、2010年代はプライバシー保護の観点も重要になってきました。 ユーザー行動履歴などの保護と利便性とのバランスをどうするか、 Webブラウザでどのように対応するのか。 このあたりをわかりやすくユーザーに提示できるかどうかが、 今後のシェアを左右しそうです。