ニュースレターNo.37/2007年11月発行
第19回ICANN報告会レポート
2007年7月23日(月)、九段会館(東京都千代田区)にて、JPNICと財団法人インターネット協会(IAjapan)の共催で第19回ICANN報告会を開催しました。以下に、報告会の内容をご紹介します。
ICANNサンファン会議概要報告
JPNICの高山より、ICANNサンファン会議(2007年6月23日~29日)の概要報告を行いました。本会合での主なトピック(2007-2008年度の運営計画案・予算案の承認、gTLDドメイン名登録者保護に関する議論、北米地域のRALO※1設立、IPv6実装に向けて、ドメイン名テイスティングへの対応)の概要と、WHOISに関するPDP※2および新gTLD導入に関するPDPの進捗状況についてもお伝えしました。
主なトピックの内容については、「ICANNサンファン会議報告」でご報告しているため割愛します。
.asiaおよびDotAsia Organisationについて
.asiaのレジストリとして2006年12月にICANNと契約を締結し、2007年10月に優先登録受付を開始したDotAsia Organisation Ltd.※3について、DotAsia Organisation Ltd.理事でもある株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の遠藤淳氏にご報告いただきました。
地域ドメイン名については、欧州連合が関与して作られた.euが既にありますが、.asiaについてはコミュニティ主導で新設されており、コミュニティによるコミュニティのためのTLDと言えるそうです。コミュニティのために創設されたドメイン名であるという特徴は、DotAsia Organisation Ltd.が非営利法人であり、.asiaのサービスから得る利益は、会員への分配ではなくコミュニティ振興策実施に用いられる点にも見て取れます。
登録スケジュールについては、段階的な優先登録期間を設けるだけではなく、ドメイン名の活用案募集に対する優れた提案者には、対象ドメイン名を優先的に登録できる権利を付与する、「.Asia Pioneer Domains Program ※4」も導入しています。新たな取り組みにも挑戦しており、今後の展開が注目されます。
ICANN At-Large諮問委員会(ALAC)報告
財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の会津泉氏より、At-Large諮問委員会(ALAC)の活動報告がありました。
今回のサンファン会議で北米地域のRALOが設立されたことにより、5地域全てのRALOが整いました。全てのRALOが設立されるまでのALACは、暫定委員会の形を取っていましたが、これを機にALACの本格的な体制も整い、今後はポリシー分野への活動に注力していくとのことです。特に、諮問委員会としての機能強化や、ICANN内の他組織との連携を進める意向にあるとのことです。
ALAC関連の会議では、かなり活発な議論が行われたようです。その理由の一つに、今年の春以降、ALACの委員メンバーのうち2/3ほどが入れ替わり、これまでの慣習を知らないメンバーとの会議の進め方を巡る議論が白熱したことがあると聞き、さまざまなメンバーが集まるICANNの会議らしさがうかがえました。
IDN ccTLD導入に向けた活動について
IDN※5 ccTLDに関する議論は、この1年ほど集中的に行われ、ccNSO内の見解がまとまりつつあります。IDN ccTLD導入に向けた検討状況について、JPRSの堀田博文氏よりご報告いただきました。
ccNSOにおいては、IDN ccTLD導入のための基本的な考え方は次のようにまとまっており、まずは限定的にIDN ccTLDを導入し、問題が生じた場合には、その都度解決を図っていく姿勢で導入を開始しようとしているとのことです。
- ポリシー面の調整は引き続き行うが、ファーストトラックでは現ASCII ccTLDに対応する国/地域がまずは一つのIDN ccTLD文字列を選択し、限定的に導入する。
- 選択された文字列に対してレビュー/異議申し立て/反論することができるよう、パブリックコメント期間を設ける。
サンファン会議での議論に先立ち、APTLDより「まずは限定的な措置でIDN ccTLDを迅速に導入することを求める」といった内容の声明※6が2007年6月21日に提出されており、アジア太平洋地域のメンバーがIDN ccTLD導入に向けた議論を推進する役割を担っているとのことです。
現時点で認識されている課題の解決策については、ほぼコンセンサスとなりつつあり、本年中もしくは来年はじめには、ccTLDの検討の成果としてレポート等を提出できるのではないか、との見込みが伝えられました。
ICANNレジストラ認定契約を巡る議論について
米国のRegisterFly社がRAA※7を解約された一件を受けて、前回のリスボン会議以降、RAAの内容見直しやレジストラが所有するデータのエスクロー(第三者への預託)強化などについて議論されるようになりました。RAAを巡る議論について、JPNICの穂坂俊之より報告を行いました。
かねてからRAA遵守の状況についてはICANNが監査を行っていたものの、WebサイトやWHOISの内容をチェックする程度にとどまり、立ち入り検査を実施するまでには至っていませんでした。2007年5月に調査したところでは、WHOISすら提供していないレジストラが19組織もあったとのことで、ICANNとしても事態の改善に向け急速に動き出した感があるとのことです。
RAAの見直し項目については、未だ全てリストアップされている段階ではないものの、コミュニティからのフィードバックを含め次第に輪郭が見えてくるのではないか、とのことでした。レジストリが何らかの原因で機能不全に陥った場合の対応策についても検討されており、エスクローエージェントの選定も進められています。
なお、JPドメイン名については、登録者保護の施策の一つとして既にデータエスクローの仕組みが実装されています※8。
IPv4アドレス在庫枯渇に関する議論の状況について
IPv4アドレス在庫枯渇に関しては、前回のリスボン会議でASO※9によるワークショップが開催されて以降、ICANNでもかなりの関心が寄せられるようになり、サンファン会議を機に本格的に議論されるようになったと言えます。JPNICの穂坂俊之より、ICANNでのIPv4アドレス在庫枯渇に関する議論についてRIR※10でのポリシー動向も織り交ぜ報告しました。
あと数年でIPv4アドレスの在庫が枯渇すると予測される状況において、その現実に対処するためのIPアドレスポリシー提案が世界各地で議論されており、RIR/NIR※11からはIPv4アドレス在庫枯渇に関する声明が発表されつつあるとのことです。NIRにあたるJPNICでも、2007年6月15日に姿勢表明を発表し※12、IPv4アドレス在庫枯渇にかかる課題に取り組んでいます。
ICANNでも、インターネットが将来も成長していけるかどうかは、IPv6アドレスの実装にかかっていると考えていることが表明されました。また、現状の認知度を向上するようASO、RIR、NIR、GAC等から要請がある点について同意し、IPv6を時宜に適って実装できるようRIRと協力し、教育やアウトリーチ活動に取り組むことが決議されました。
ICANN政府諮問委員会(GAC)報告
総務省の辰川晶子氏より、政府諮問委員会(GAC)での議論の様子について報告がありました。
GACメンバー間においても、IPv4在庫枯渇およびIPv6導入に関する情報交換が行われ、NRO※13からは、政府としてもIPv6対応を進め導入事例を示していくことが必要である、といった内容のプレゼンテーションがあったそうです。IPv6への円滑な移行は、公共政策の観点からも重要性を増しており、今後もGACとして注視していくことを確認したとのことです。
IDNについては、ccNSOとともにIDN ccTLDについて今後PDPの中で検討されるべき課題を論点ペーパーとしてまとめGACで採択し、ICANN理事会に提出したことが伝えられました。PDPと並行して、暫定的なIDN導入を可能とするプロセスの検討も必要と認識しているそうです。
ICANNでは、より多くのステークホルダーが参画できるよう発展途上国などからの参加者を支援するフェローシッププログラムを導入し、サンファン会議には本プログラムにより33名の参加者があったそうです。GACとしては本プログラムを強く支持することを表明し、各国内で周知していくとともに継続的に利用されることが重要であるため、本プログラムの発展を手助けしていく意向にあるとのことです。
ICANN理事からの報告
株式会社ネオテニーの伊藤穰一氏からは、理事会決議※14に沿って、理事会における議論の様子について報告がありました。
ICANNの運営に直接関係する、2007-2008年度運営計画案・予算案の承認については、戦略計画に基づき運営計画案が設定され、運営計画案に基づき予算案が設定されるべきものの、全体としてはまだ上手く関連していないことが反省点として残るとのことです。また、予算案は理事が決議することになっていますが、実際には拒否権を行使できるレジストラとの関係にも左右されるとのことで、理事会の一存では決められない難しい事項であるようです。
また、伊藤氏ご本人が本年11月をもって理事の任期を終えられることもあり、今後も引き続き日本のコミュニティから積極的に参画するよう呼び掛けがありました。ICANNにおいては、知的財産等の法律関係者や通信事業者・メーカー等からの参加者が多くなっているものの、日本からはほとんど見られないため、日本のプレゼンスを高めていくことが課題として指摘されました。
- ICANN報告会の資料と動画は、JPNIC Webサイトにて公開しています。
- http://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/index.html
(JPNIC インターネット推進部 高山由香利)
- ※1 Regional At-Large Organization:地域別At-Large組織
- 個人インターネットユーザーがICANNプロセスに参加するための枠組みです。RALOは、さらに複数に分かれた自主運営の現地At-Large組織(ALS:At-Large Structure)により構成されることになっています。
- ※2 Policy Development Process:ポリシー策定プロセス
- ICANNの役割の一つに、インターネットにおける各種資源の調整業務に関連するポリシー策定があり、このポリシー策定のための一連の流れをポリシー策定プロセス(PDP)と呼んでいます。ICANN改革を受けて改定された新付属定款には、プロセスの詳細が明確に規定されています。
- ※3 DotAsia Organisation Limited.
- http://registry.asia/
- ※4 .Asia Pioneer Domains Program
- http://pioneer.domains.asia/
- ※5 Internationalized Domain Name:国際化ドメイン名
- ドメイン名を表す文字として、漢字やひらがな、アラビア文字などの、ASCII以外の文字を使えるようにするための技術です。RFC3490、3491、3492で規定されています。
- ※6 APTLD Position on Top Level Internationalised Domain Names
- http://www.aptld.org/position.htm
- ※7 Registrar Accreditation Agreement(RAA):レジストラ認定契約
- ドメイン名登録機能を遂行するにあたって、ICANNおよびレジストラが従うべきルールを定めた契約文書をレジストラ認定契約と呼びます。ICANNとICANN認定レジストラの間で締結される契約です。
- ※8 データエスクロー
- レジストリやレジストラとしてのサービスを継続的・安定的に提供することを目的として、データを第三者にエスクロー(預託)する行為のことをデータエスクローと呼びます。JPドメイン名の登録管理業務においては、ICANNとJPRSとの間で締結されたccTLDスポンサ契約に基づき、JPRSは日々更新されるJPドメイン名のレジストリデータを第三者にエスクローしています。
- ※9 Address Supporting Organization:アドレス支持組織
- ICANNの基本構造となる三つの支持組織の一つであり、IPアドレスというインターネット資源をいかに運用するか議論し、ICANN理事会に勧告を行う役割を負っています。
- ※10 Regional Internet Registry:地域インターネットレジストリ
- 特定地域内のIPアドレスの割り当て業務を行うレジストリです。現在、APNIC、ARIN、RIPE NCC、LACNIC、AfriNICの五つがあります。JPNICのIPアドレス割り当て業務は、APNICの配下で行っています。
- ※11 National Internet Registry:国別インターネットレジストリ
- 国別に組織されたインターネットレジストリを指します。地域インターネットレジストリ(RIR)よりアドレスブロックの割り振りを受け、それをローカルインターネットレジストリ(LIR)に再割り振りを行います。JPNICはNIRにあたります。
- ※12 「IPv4アドレスの在庫枯渇に関して」
- http://www.nic.ad.jp/ja/ip/ipv4pool/
- ※13 Number Resource Organization
- APNIC、ARIN、LACNIC、RIPE/NCCの四つのRIRにより、2003年10月24日に設立された非営利組織で、RIR全体として外部組織との調整が必要な場合に全RIRを代表する組織となります。
インターネット用語1分解説 ~NROとは~
http://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/nro.html - ※14 Adopted Board Resolutions - San Juan, Puerto Rico
- http://www.icann.org/minutes/resolutions-29jun07.htm