ニュースレターNo.41/2009年3月発行
IGFハイデラバード会合報告
概要
今年で第3回となるインターネットガバナンスフォーラム(IGF)が、2008年12月3日(水)から12月6日(土)まで、インドのハイデラバードで開催されました。
IGF自体がどういうものであるか、現在までの流れに関しては、第1回アテネ会合、第2回リオデジャネイロ会合に関する、メールマガジンの記事※1をご覧ください。
今回のハイデラバード会合は、会期直前の11月26日にムンバイで発生した同時多発テロの影響で、波乱含みでした。オープニングセッションはテロ被害者への黙祷で始まり、全てのスピーチは被害者に対するお悔やみから始まりました。
日本では多くの企業が社員のインドへの渡航を禁止したため、日本からの参加予定者の半数以上が出席を取りやめました。欧米からの出席取りやめも少なくなく、セッション主催者が直前に登壇者の再調整を行っている姿も目立ちましたが、全体としてみますと、公式発表による参加者数は94ヶ国から1,280名と例年並みの水準でした。会場となったHICC -Hyderabad International Convention Centreは街中の雑踏が嘘のようで、最新の施設に国連主催会議独特の厳重な警戒で、テロの危険を感じることはありませんでした。
会議は、一つのメインセッションと複数のワークショップが同時に進行する形式で進みました。これは過去のIGFと同様です。一方で、メインセッションの形式は大きく変わりました。
第1回、第2回は、主要テーマ(第2回では五つ。開放性、セキュリティ、多様性、アクセス、重要インターネット資源)ごとに1セッションで完結するように構成されていましたが、今回は、午前中をパネルディスカッションとして、パネリストによる発表とパネルの中での議論を中心としたセッションを配置し、午後はオープンダイアログと称して、午前中のパネルディスカッションで得た共通認識を前提に、フロアからの意見を数多く集める形式を取りました。
- □2008 IGF Hyderabad Programme
- http://www.intgovforum.org/cms/index.php/hyderabadprogramme
第1回会合では、パネリスト、聴衆ともに短く簡潔な意見を多数取り上げるように、モデレータによって注意深くコントロールされている感じがありましたが、今回はもう少しラフな、インターネット系の会合で見慣れた感じとなりました。
ワークショップは数が多く、同時に8セッションが並行して開催されるため、一人で全体像をつかむことは不可能です。私は、重要インターネット資源(Critical Internet Resource)に関するセッションを選んで見ていくことにしました。重要インターネット資源というテーマの下には、IPアドレス、特にIPv6とIPv4アドレス在庫枯渇の問題、ドメイン名管理、ICANN体制自体といった内容のセッションが並んでいます。
「IPv4からIPv6への移行Transition from IPv4 to IPv6 」と題されたメインセッションには、総務省データ通信課の柳島智企画官が登壇され、総務省研究会※2や、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースなどの取り組みの紹介がありました。今までこういうセッションでは、IPv6対応において進んでいる組織がその対応状況を自慢げに語るか、逆にIPv6対応の難しさを嘆くかの両極端の論調ばかりが目立っていた感じがありますが、スウェーデンのIXであるNetnod社(http://www.netnod.se/)のKurtis Lindqvist氏、Nokia Siemens社のJonne Soininen氏などヨーロッパからの登壇者は、IPv4アドレス在庫枯渇を現実問題として捉え、どう解決するべきなのかという観点から、IPv6を真剣に考えていることがうかがえました。
ICANN体制自体に関しては、ICANNと米国商務省との間のJoint ProjectAgreement(JPA)に関するワークショップが開催されました。ここがまさに、WSIS(世界情報サミット)で大論争となったテーマ※3であるわけですが、米国政府の関与に反対意見を示す人はいるものの、紛糾には至らず淡々とセッションが進んでいきました。
最後に、全体を通して印象に残ったことを述べます。
IGFに関して、いくつかの地域ではリージョナルなIGFを組織する動きがあるようです。活発な例が英国のUK IGF(http://www.ukigf.org.uk/)で、国会議員までこれに関与し、今回数名の国会議員がハイデラバード会合に参加するとともに、フロアから積極的に意見を述べていました。
サイバーセキュリティやグリーンITなど、新たなテーマを付け加えつつも、大枠としては3年間同じような議論が繰り返されている感じもします。ワークショップは背景説明に終始しているものもあり、IGFが設定した壮大なテーマに対する進捗の難しさを感じます。
一方で、チュニスアジェンダによって設定されたIGFの活動期間は5年間であり、3年目となる今回は折り返し地点となるため、依然試行錯誤は続いているものの、2年後の着地点を意識するような発言も複数見受けられました。これからの2年間は、ICANNのJPA満了と合わせて、注視が必要です。
(JPNIC IP事業部 前村昌紀)
- ※1 JPNIC News & Viewsバックナンバー
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vol.408 IGFアテネ会合報告
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2006/vol408.html
vol.421 IGFを振り返る
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2006/vol421.html
vol.500 IGFリオデジャネイロ会合報告
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2007/vol500.html - ※2 インターネットの円滑なIPv6移行に関する調査研究会
- http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/ipv6/
- ※3 JPNIC News & Views vol.316[特集]世界情報社会サミット(WSIS)報告
- http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2005/vol316.html