ニュースレターNo.50/2012年3月発行
ネトボラ宮城、この1年を振り返って
~お気楽ボランティアのススメ~
「ネトボラ=ネットボランティア」の『ネトボラ宮城』では、被災地における情報収集と発信がスムーズに行えるよう、現地のインターネット環境の整備を支援してきました。JPNICでは、この『ネトボラ宮城』代表の佐藤大氏に、震災直後から活動と現地の様子などのレポートをご寄稿いただいて、メールマガジンでお届けしてきました。
東日本大震災から、丸1年を迎えました。この機に「お気楽ボランティア」やってみませんか? また1年間のレポートの抜粋から、1年間を振り返っていただければと思います。
ネトボラ宮城では、いわゆる被災3県(岩手、宮城、福島)のボランティアセンター等の情報をブログなどで確認し、毎日Twitterで情報発信しています。地震後のゴールデンウィークには受け入れ切れないほどの数のボランティアがどこのボランティアセンターにも来ていましたが、執筆時の2012年1月時点では、すっかりボランティアが減っているようです。「今日は3人でした」などという記述も良く見かけるようになってきました。阪神・淡路大震災の1年後にもボランティアの激減は話題になっていたので、予想された状況ではあるのですが。
震災直後の津波被災地では、どこでも瓦礫撤去や泥出しをしないことには何も始まらない状況でした。なので当時は「東北でボランティア」と言えば、安全靴・ゴム手袋にマスクをして、泥まみれで重労働というイメージでした。今にして思うと、ボランティアに行くと何をすることになるかがイメージとして分かりやすく、手伝いに行きやすかったのかもしれません。
ところが今は、復旧・復興の進捗具合が地域によって異なり、必要とする支援の内容もバラバラです。いまだに田んぼの中に自動車が転がっている地域もあれば、流された線路をどこに敷設するかが決まっていない地域もあります。こういう地域では、今でも泥出し要員や土嚢袋を募集しているボランティアセンターがあります。その一方で、瓦礫や泥がすっかり片付いて更地になっており、経済復興を見つめた企業再建や雇用確保への支援を必要としている地域もあります。
このような状況では、仮にボランティアをしたいと思う人がいても、どこに行って何をしたら良いのかが分からず、諦めてしまうことも多いのかもしれません。でも見方を変えると、自分に合う作業のニーズが、きっとどこかにあるということだと思います。
もしかすると多くの人には、「ボランティアというからには、直接現地に入って身体を動かさないといけない」というイメージがあるのかもしれません。でも実際には、ボランティアにはとてもいろいろなパターンがあります。自分が生活している環境の中で、できる時間にできることを、本来の生活に無理が出ないように実施するのがボランティアだと、私は思っています。
実際にネトボラ宮城のメンバーの活動も、メンバーのスキルや居住地によっていろいろです。活動の中心であるメーリングリスト(ML)には約100名の登録者がいるのですが、仙台在住のICT技術者ばかりではなく、東京や大阪など遠隔地のメンバーも大勢います。中には「パソコンのことは分からないけど、何かできることがあるかも」とやり取りを見守ってくれている人もいます。
「ネットワークのボランティア」と聞いて一番想像しやすいのは、機器を持って現地に行き設置作業をすることかもしれません。でもこの作業を行うきっかけを作るのは、あちこちでネトボラ宮城の宣伝をしてくれたり、ネットワークやパソコンのニーズを聞き出して教えてくれる人です。また設置する機器の提供を申し出てくれたり、機器を提供してくれそうな先を紹介してくれた人、これらの提供された機器を東京から仙台まで車に積んできてくれた人もいました。また、現地入りの近道や迂回路をアドバイスしてくれる人もいました。
この他にも、ML上の議論に参加して活動方針や作業の進め方についてコメントしてくれる人や、関連コミュニティやイベントにネトボラ宮城を紹介してくれる人、Webサイトの更新作業をしてくれる人、Twitterでの情報発信を担当してくれる人、さらには、何も言わずに活動資金を寄付してくれる人など、本当にさまざまな形の『活動』があります。 被災地に行って肉体労働をしたり、チャリティイベントを主催したり、大金を赤十字に寄付したり、……なんて大げさなことでなくてもいいんです。ときどき被災地のことを思い出して休憩時間の茶飲み話の話題にすることだって、立派な被災地支援ボランティアです。もしかすると茶飲み話より、被災地関連の話題をつぶやいたりリツイートしたりシェアしたりする方が、もっと気楽だという人もいるかもしれませんね。それもまた立派な被災地支援ボランティアです。自分が普段から慣れていて簡単にできることを気軽にやるのは楽だし、その分回数を増やせば、「一球入魂型ボランティア」よりも大きな効果を発揮できるかもしれません。
「被災地のことは気になるけど、何をしたら良いのか、何ができるのかが良く分からない。」という声を良く聞きます。この段階で止まってしまうのは、モチベーションがあるだけにもったいない気がします。そんなに難しく考えず、「気になるけど何ができるか分からない!」と声に出すだけでも、周りの人に被災地を思い起こさせる、これまた立派なボランティアです。あんまり頑張らないボランティアを、あなたも始めてみませんか?
◆ 第1回(2011年6月6日発行):~「ネトボラ宮城」のご紹介~
ネトボラ宮城は、震災から1ヶ月以上が過ぎた4月後半から活動を始めました。職場の災害対応の委員であった私は、災害発生から丸1ヶ月の間は職場の災害対策本部に張り付いていました。大きな余震も過ぎて状況が落ち着き、災害対策本部を出る時間が取れるようになった頃、県の災害医療アドバイザーをしている医学部の教授から連絡を受けました。「被災地の医療拠点でパソコンが足りない。手伝って欲しい。」という内容でした。これとほぼ時を同じくして、昔のネットワーク仲間から「ICT 支援の申し入れがあるが、被災地側の受け入れ窓口を知らないか」という問い合わせを受けました。結局、支援して欲しい人と支援したい人が揃っているのに、お互いに出会えていないというわけです。この頃はまだ、支援物資やボランティアのマッチングサイトが、やっと軌道に乗り始めた時期でした。……
◆ 第2回(2011年7月5日発行):~パソコンのセットアップは虎の穴~
今回の設置先は避難所で、パソコンは主にWebサイトの検索/閲覧用です。特殊なツールや専門的なソフトを用意する必要がない代わりに、スキルがない人でもすぐに使い始められるよう、使いそうなソフトはできるだけインストールしておく必要があります。何をどうセットアップするかの相談を始めて、Windowsを最新版までアップデートすることは全員一致ですぐに決まりました。しかし、その他にも悩むべき項目がいろいろとあることに、この時やっと気付きました。……
◆ 第3回(2011年7月27日発行):~季節は巡る~
避難所から仮設住宅への移住が進み、避難所からの支援要請は落ち着きました。ただし、南三陸町や気仙沼など被害のひどかった地域の一次避難所や、内陸部の市町村に開設された二次避難所からは、今も要請が来ています。これは複数箇所の避難所に分散してしまった住民に対して、行政からの情報を届けるためのものだそうです。また6月末を区切りとして、多くの企業で支援体制が切り変わったようです。寄贈または長期貸与されたパソコンなどは引き続き使えるのですが、ランニングコストがかかる通信回線の支援が打ち切られたケースが複数見られました。場合によっては通信回線が無くなったり、そこにいるボランティア個人の持ち出しで通信環境を維持したりするケースが出てきています。……
◆ 第4回(2011年8月19日発行):~人力アグリゲーション~
ネトボラ宮城では、ボランティア募集情報を勝手に収集/再発信する副業(?)を始めました。具体的には、主なボランティア関連団体のブログを巡回して内容を確認し、ネトボラ宮城のWebサイト上にボランティア募集状況の一覧表を掲載したり、募集内容やその他のボランティア関連情報をTwitterに流したり、更新状況をFacebook上のグループ「ネトボラ宮城」で広報したりする、というものです。……
◆ 番外編(2011年9月9日発行):~あれから半年~
早いもので、この日曜日で東日本大震災から半年が経とうとしています。
それでもまだ石巻市、気仙沼市、多賀城市、女川市、南三陸町などでは、避難所暮らしをされている方々が3,000人近くいらっしゃいます。また県外に避難している方は8,500人ほど登録されているようです。この他にも、仮設住宅に住むことを余儀なくされていたり、住居が確保できていても仕事が無かったりと、なかなか「普通の生活」は戻ってこないようです。……
◆ 第5回(2011年9月22日発行):~南三陸町訪問レポート~
震災からちょうど半年となる2011年9月11日(日)から1泊2日で、津波で大きな被害を受けた南三陸町に行ってきました。この日を南三陸で体感するための合宿で、ネトボラ宮城と同じく仙台で活動している「IT で日本を元気に!」http://revival-tohoku.jp/it/が企画したものです。総勢30名以上が参加し、その約半数は東京など被災地域外からの人達でした。南三陸町の被災者の方々が暮らす仮設住宅を訪問して、現在抱えている問題点などを聞き、また仙台からの往復の間も津波被災地の状況を確認しながら移動するという、とても密度の高い2日間でした。……
◆ 第6回(2011年11月11日発行):~手軽に契約できるネットワークが欲しい~
10月にはネトボラ宮城への支援要請や問い合わせがだいぶ増えました。単発の支援から腰を据えた支援に向けて体制を整備した団体や、仮設住宅での生活支援を新たに始める団体、それに活動を再開する被災地の施設などからの要望などです。この中で相変わらず不足しているのは、数ヶ月単位のネットワーク回線契約の確保です。短期間向けやプリペイド方式のプランが用意されていると良いのですが、実際にはそういう商品がほとんど見当たらず、支援団体の限られた予算ではなかなか契約に踏み切れないという声をよく聞きます。いつまでも無料支援を続けるべきではないとは思うのですが、受け皿となる安価な商品が無いという現状は、なかなか苦しいところです。……
(ネトボラ宮城代表/東北大学病院 佐藤大)